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### 29.Aug.2,012 ###
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REVIEW 12-005 |
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山嶽党奇談 鞍馬天狗傑作選 - 2
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大佛 次郎
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文芸春秋
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“角兵衛獅子”に続く鞍馬天狗傑作選第2巻。
巻末の『解説』等に拠ると、本作品は“角兵衛獅子”同様、
雑誌“少年倶楽部”誌上で発表されたと云う。
連載期間は昭和3年7月号から昭和5年12月号までと云うので、
“角兵衛獅子”の連載終了からほぼ日を置かずして、ということになるのだろう。
“角兵衛獅子”がすこぶる面白かったので、本作品も期待を込めて読み始めたのだが、
残念ながら少々期待外れの感は否めなかった。
まず、敵役の『山嶽党』の設定や描写がやや曖昧で、敵としての切迫感があまり感じられない。
鞍馬天狗ら勤王の志士 対 佐幕派筆頭の新撰組。
二大勢力が睨み合う京の都に、穢れ仕事を金子で請け負う謎の結社『山嶽党』が出現。
佐幕 / 勤王 の争いに第3勢力として絡んでくるのか、あるいは3大勢力が血で血を洗う
バトル・ロイヤルを繰り広げるのかと思いきや、大した働きもしないまま、
組織は鞍馬天狗らに潰されてしまう。
おどろおどろしい『山嶽党』の描写はあるものの、具体的な恐ろしさを説明する描写が少なくて、
『山嶽党』の登場に因る緊張感が伝わってこない。
また、物語の後半に、前作から鞍馬天狗らと行動を共にすることになった
元角兵衛獅子の杉作少年が、かつて角兵衛獅子の元締めであった隼の長七に誘拐されるのだが、
隼の長七がどうやって杉作少年の居所を探り当てたのか、また隼の長七がなぜ杉作少年を
誘拐したのか、説明が無い。 おおかた鞍馬天狗をおびきだす餌のつもりだったのだろうが、
そうした事前の描写もなく、唐突感ばかりが鼻につく。
これは巻末の『解説』で指摘されている事だが、本作品は主に杉作少年の視点から描かれているようだ。
それ故だろうか、子供の視点からでは感知できない事象に関しては
描写があいまいにぼかされているきらいがあり、それが私の感じた不満の一因なのだろう。
掲載誌が少年向きの雑誌であったため、やむを得ない事情ではあっただろうが、
小説の完成度としては残念と述べざるを得ない。
“鞍馬天狗傑作選 その3”に期待する。
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REVIEW 12-005 |
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