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### 24.Dec.2,011 ###


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星の王子さまの眠る海
エルヴェ・ヴォドワ
フィリップ・カステラーノ
アレクシス・ローザンフェルド
ソニー・マガジンズ

『夜間飛行』や『戦う操縦士』、あるいは『星の王子さま』等の作者
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(愛称サン=テックス)の最後は
不可思議であり、ある意味ロマンチックでありさえする。
1,944年7月31日、44歳のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ少佐は
愛機であるロッキード P-38 ライトニングの写真偵察機型 F-5B
USAF S/N : 42-68223 / LOCKHEED S/N : 2734 に搭乗し、
コルシカ島ボルゴ基地からフランス南東部のサヴォア方面に向けて離陸。
偵察任務に就いたまま、二度と戻らなかった。
敵であるナチス・ドイツ側にも、サン=テグジュペリの乗機らしき機体を捕獲、
あるいは撃墜したとの確たる記録もなく、
彼が戦時捕虜になったとの記録もなければ、
彼の遺体や乗機の残骸すら発見されなかった。
まるで F-5B に乗ったまま星の世界に旅立ってしまったかの如く、
一切の痕跡を残さず、地上から消えてしまったサン=テグジュペリ。
“伝説”とまで称される所以であろう。

その伝説のベールの一部が、遂に剥がれる時が訪れた。
1,988年9月7日、フランス・マルセイユの沖合いで操業中であった
トロール漁船ロリゾン号の底引き網に、
サン=テグジュペリの私物と思しき銀のブレスレットが引っかかった事から、
遂に彼の乗機の残骸が発見される、いや、海底の残骸の
搭乗者の身元が特定されるに至った、と表記すべきか。
本書はその顛末の記録である。

永らく海底にあったライトニング機の残骸は、
トロール船の網に度々引っかかっていたらしく、
多くの部品が脱落し、回収できた部位は極わずかであったという。
もう少し遅ければ、残骸はバラバラに分解し、機番の特定はおろか
機種の特定すら困難な状態に陥っていたであろう、とのこと。
まさにラスト・チャンスであった訳である。

“伝説”の機体の捜索行の記録は、大変興味深かったが、
その一方、捜索に反対する遺族 - 特にサン=テグジュペリの甥の息子であり
相続代表者のフレデリック・ダゲー氏らの執拗な捜索反対運動も、
心情的には判る気がする。 行方不明となり、長い時間をかけてやっと
“戦死”という残酷な事実を受け入れるに至った御遺族にとって、
肉親の墓を暴くような真似はして欲しくないと考えるのは、当然の事だろう。
本書の著者はジャーナリストであり、捜索推進派と反対派いずれからも
中立的な立場で取材を進めるべきであろうが、
御遺族側からは推進派と見なされたのか、
御遺族側の心情にまで踏み込んだ取材はされていないようだ。
その一点において、本書は片手落ちと評せざるを得ない。

墜落原因(被弾、機の故障、航法ミスに因る燃料の欠乏、あるいは自殺?)や
遺体の行方など、未だに解明されない謎は残るが、ともあれ
サン=テグジュペリの乗機の墜落位置だけは特定できた。
御遺族側とのしこりは残った事であろうが、
それだけでも行幸であったと思えてならない。
READING PESOGIN
## 脊髄反射的ともとれる御遺族側の捜索反対活動は、
## 少々度を越しているようにも思えるのだが ... ?

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