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### 24.Dec.2,011 ###


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夏のロケット
川端 祐人 文藝春秋

*** 第15回(1,998年)サントリーミステリー大賞優秀賞受賞作品 ***
あさりよしとおの漫画“なつのロケット”と同名の小説 - というのが、
本書を手にした理由であった。
事実、“なつのロケット”の後日談、といった趣の一篇であったが、
あさりよしとおの漫画と何らかの関係があるのか、よく判らない。
一説に拠れば、漫画“なつのロケット”は本作品のオマージュなのだそうだが。

ロケットに情熱を燃やす高校の同級生5人組。
学校の天文部内に“ロケット班”を結成し、遂には天文部を乗っ取ってしまう。
部費の全てを自作ロケットの制作費につぎ込み、3年を過ごす5人組。
高校卒業後、それぞれの道に進んだ“ロケット班”の5人だったが、
社会に出、それぞれのポジションを確立した頃、かつての熱病が疼きだした。
火星有人探査一番乗りを目指し、まるで運命の糸に手繰り寄せられるが如く、
かつてのロケット仲間5人組が最集結を果たす。
そこに過激派の高性能ロケット弾密造事件が絡んできて ... という粗筋。

“ミステリー”というよりも“ライト・ノヴェル”のような読み心地で、
平易な文章で宇宙開発の歴史やロケット工学の基礎の基礎等が学べる一方、
ストーリーの展開がいかにも御都合主義であり、、ミステリーとしても物足りない。
ロケットのカプセルに宇宙服さえ搭載すれば、有人宇宙飛行が可能であるとしたり、
- カプセルは人間一人乗るのがやっとの狭さで、
 宇宙服に外付けされる最低限の生命維持装置すら
 搭載する余裕は無さそうな描写であった -
海に落下したカプセルからアストロノートを救出する為に、
泳ぎながらハンマーを振るう描写にはいささか失望した。
また、宇宙への夢を持ちながらも手榴弾を発明してしまい、
時のロシア皇帝アレクサンドルII世を暗殺してしまう事になった
キバリチッチの名が幾度となくクローズ・アップされる一方、
戦後のソ連宇宙開発事業最大の功労者である
セルゲイ・パヴロヴィッチ・コリョロフの名が一度も出てこないのは如何なものか。

無粋を承知で付け加えるなら、劇中で5人組が事業拡大の為に目論んでいた、
衛星経由の携帯電話用通信衛星打ち上げビジネスは、
携帯電話の爆発的普及に伴う地上中継基地局の増加が仇となり、
コスト面で折り合いがつかず、21世紀になった頃に断念されたと記憶している。

この作品は、肩の凝らない青春エンターテインメント小説として
楽しむのが一番なのだろう。
READING PESOGIN
## 作中、繰り返し述べられる
## “ロケット”と“ミサイル”は紙一重という
## 著者の主張は正鵠を射ている。
## 抹香臭い教訓話で恐縮だが、
## ロケット開発には先ず、
## フィロソフィーが確立されていないと
## 道を誤りかねない

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