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星の王子さま
サン = テグジュベリ 新潮社
新潮文庫

飛行士であり作家でもあったフランスのアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。
『人間の土地』や『戦う操縦士』等、彼の遺した作品には関心があったものの、
訳文の格調が高すぎて馴染めなかった。
彼の作品のうち、最も有名であろう『星の王子さま』を今日まで
紐解かなかったのも、それ故である。
ところが、去る2,005年1月22日に日本での著作権保護期間が切れたのを機に、
『星の王子さま』の新訳版が多数発表される運びとなった。
今回拝読したのは、その新訳版のひとつ。 訳者は河野万里子女史。
柔らかな文体が心地よかった。

本作品をあえて一言で表すならば、
寓意に満ちた大人のための童話 ... となるだろうか。
童話である以上、童話として読むべきであろうが、無粋を承知で深読みしてみよう。

本作品が発表されたのは1,943年の春。
戦局の悪化したヨーロッパから避難したアメリカにおいて、であったという。
当時、フランス国土はまだ親ナチスのヴィシー政権下にあり、
英国に逃れたシャルル・ドゴール准将率いる亡命政権“自由フランス”との間で
引き裂かれた状態にあった。

作中に登場する“飛行士”は明らかに著者の分身であろう。
では“王子さま”は ... ? その前に、“王子さま”の周囲の舞台装置を眺めてみたい。
“王子さま”の故郷である小さな星には小さな、2つの“活火山”と1つの“死火山”がある。
ガラスの覆いが必要なほどか弱いのに口煩く、トゲのある“花”が1輪。
そして、少し気を抜くと星じゅうにはびこって、ついには星を壊してしまう
“3本のバオバブの木”。

時代背景から考えて、この“3本のバオバブの木”は、当時の悪の枢軸国、
『日本』、『ナチス・ドイツ』、『イタリア』を象徴しているのは明らかであろう。
火山に関してはよく判らないが、“2つ活火山”は『ヴィシー』と『自由フランス』の
2つを指し、“死火山”はナチス・ドイツ占領下にあって耐え忍ぶフランス人民。
1輪の“花”は、フランス人民の声なき悲鳴の象徴のように感じられる。
つまり“王子さまの星”はフランスそのものであると思う。
では“王子さま”自身は ... 幼年時代のサン=テグジュペリ自身、
あるいはサン=テグジュペリの中に在るフランス人の部分、
いわば彼の中のナショナリズムの象徴だと思う。

旅の果てに“王子さま”は砂漠 - そここそはサン=テグジュペリにとって馴染みの地 -
に降り立ち、“飛行士” - アメリカ滞在中のサン=テグジュペリ自身 - と出会い、
“キツネ” - ノブレス・オブリッジの象徴? - と友達になり、
か弱い“1輪の花”の為に自らの“星” - 云うまでもなくフランスへ - 帰る決心をする。
フランス人としての義務を果たす為。
蛇に噛まれる - 著者の未来の暗示? - ことによって。

その後のサン=テグジュペリの運命は、ここで述べるまでもなかろう。
この童話はある意味、著者の決意表明でもあったと思われてならない。
READING PESOGIN
## 童話を深読みするのは、やっぱり無粋かも知れない

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