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### 04.Sep.2,012 ###


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円谷一 ウルトラQと“テレビ映画”の時代
白石 雅彦 双葉社

特撮好きと公言して憚らなかった私だが、
恥ずかしいことに『円谷 一(はじめ)』氏に関しては、
あの特撮の神様・円谷英二氏の御長男であり、
TV番組“ウルトラQ”や“ウルトラマン”の生みの親、程度の
いささか乱暴な認識しか持ち合わせていなかった。
それがどれほど素朴で、また乱暴な思い込みであったのか、
本書を紐解いて、初めて理解できた。

作者の意図は勿論、1,973年2月に42歳の若さで急逝された
円谷一氏の人生とその業績の考察にあるが、
私には、父親の薫陶を受けて映画のエッセンスを識りながら、
新興メディアであるTV業界に飛び込んだ円谷一の苦闘を縦軸にして、
創世期のTV業界が成熟してゆく様子を活写した作品と読み取れた。

娯楽の王様であった映画が、新興メディアであるTVに駆逐される様子は
栄枯盛衰が世の習いとはいえ、一抹の寂寥を感じざるをえない。
一方、映画へのコンプレックスを抱え、少ない予算、足りない撮影時間に悩み、
電気紙芝居と揶揄されながら、新たに開発されたVTR機器等を駆使して、
娯楽の王様の座を奪ってゆくTV業界。
その姿はある意味、弱肉強食の禍々しさすら感じるが、
インターネット技術に代表される新メディアの台頭が著しい昨今、
円谷一氏らが活躍していた当時、いよいよ盤石かと思われていたTV業界にも
何やら不穏な空気を感じずにはいられない昨今である。
コンプレックスをバネにして業界を牽引してきた円谷一氏ら、
バイタリティに溢れたTV業界創世期のお歴々が現状を見たら何と言うだろうか。

それにしても父、円谷英二氏の健康悪化に伴い、14年務めたTBSを退社、
経営難に喘ぐ円谷プロへの入社を余儀なくされ、
向かない経営の仕事に追われた一氏の姿は、
私ごときが申すまでもなく、痛々しい限りである。
彼の最晩年、といってもまだ42歳の若さであったが、
吉村昭氏の『戦艦武蔵』を撮ろうという構想があったと云う。
円谷英二氏にも、『竹取物語』の製作構想があったと云うが、
親子ともども夢は見果てぬ夢で終わってしまったのが残念である。
円谷英二氏と一氏親子がもう少し御長命であったなら、
我々はどのような作品に出逢うことができたのだろう。
いや、作品のみならず、沈滞著しい昨今のTV業界さえ変えていたかも知れない。

『たら、れば』は禁物であるのを承知だが、嘆息を禁じ得ないのも事実なので、
無粋を承知で述べてみた次第である。
READING PESOGIN
## ちなみに円谷英二氏の次男は皐(のぼる)氏、三男は粲(あきら)氏とのこと。
## お二方とも難しい御名前だなあ ...


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