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### 20.Sep.2,012 ###


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ファーストマン (上 / 下)
ニール・アームストロングの人生
ジェイムス・R・ハンセン ソフトバンク・クリエイティブ

第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが、テキサス州ダラス市で
凶弾に斃れた日(1,963年11月22日 / CST : 現地時間)の事は全く覚えていない。
しかし、アポロ11号の船長ニール・アームストロングが月面に足跡を印した
1,969年07月21日午前11:56(日本時間)、自分が何をしていたかは、
まるで昨日の事のように記憶している。

前日に○歳になった私は、小学校の一学期の終業式を迎えていた。
式が終わり、ありがたくもない通知表やら夏休みの宿題やらを当てがわれ、
学期最後のホーム・ルームも終わって、あとは解散待ちとなったまま、
なぜか30分近くも教室に留め置かれた。
当日の正午頃、アメリカからの衛星中継で、人類初の快挙が
ライブ放送されることをなぜか知っていた私は気が気ではなかった。
『早く自宅に戻って、テレビが観たい!』

当時、田舎の小学校の教室にテレビなど備えられてはいなかった。
学校で唯一、テレビが備えられていたのは、校長室のみといった時代であった。
テレビが観たかったら、自宅に戻るしかない。
人類がかつて迎えた事の無い、最高の瞬間を見逃したくないとの一念で、
焦がれる想いで教室に居たのだ。

緊張していたのは私一人だったかもしれないが、場の空気には不釣り合いな、
妙に間延びしたチャイムの音色と共に、全校放送が突然聞こえてきた。
『たった今、人類が月面に第一歩を印しました ...』
そのような内容を2回、落ち着いた声で繰り返し、
再びのんびりしたチャイムの音で締め括られた放送は、今、思い出すと、
起きた事実を極めて簡明に伝えた良いアナウンスであったように思う。
放送の終了から一拍擱いて、教室には歓声が揚がり、ほどなくして帰宅が許された。

あの日、不必要なまでに学校に拘束された理由。
それは大人の親心だったのだろう。
当日は一学期の終業式で、式が終われば夏休みである。
休みとなれば、目先の事が全ての子供は遊びに行ってしまうもの。
それでは人類史上最高の一瞬を見逃してしまう事になりかねない。
だから、人類が初めて、他の天体の表面を踏みしめる瞬間を、
強制的に共有させてやるのが『大人の務め』とでも思ったのだろうが、
そのおかげで私は、“世紀の一瞬”をリアルタイムで観る機会を
みすみす逃してしまったのである。
帰宅後、その日は幾度となくテレビ放映された“世紀の一瞬の中継録画”を
食い入るように眺めたはずだが、全く印象に残っていない。
“世紀の一瞬の中継録画”は“ライブ中継”と似て非なるものに過ぎなかったから。

子供が、年齢上子供であるという理由で子供扱いされた結果、
私は一生涯払拭できない痛恨事を抱えることになってしまったと、
月着陸から43年が過ぎた今でも思っている ... とは言い過ぎだろうか?
* * *
閑話休題。
さて、本書だが、アポロ11号の船長を務めたニール・アームストロング氏の伝記である。
月からの帰還後、華やかな表舞台から距離を置いた氏の伝記は空前であり、
恐らく絶後となろう。
上巻はアームストロング家の成り立ちから始まり、海軍の奨学金制度を利用した大学進学と、
大学在学中に2年間、制度に伴う義務を果たすため、空母艦載機のパイロットとして
朝鮮戦争に出征。 VF-51 の一員として出撃を繰り返す事となる。
そして大学卒業後、NACA(後のNASA)にテスト・パイロットとして就職。
X−15のテスト等を経て、アストロノートへの道に踏み出すまで。
下巻ではアポロ11号のフライトの顛末と、飛行後の生活が語られる。

特に上巻では、あのチャック・イェーガー氏との確執のくだりが興味深かった。
まるで鳥の生まれ変わりのごとく、天性の感覚で飛行機を操るイェーガー氏と、
理論で固めた操縦を旨とするエンジニア・パイロットのアームストロング氏の対比。
イェーガー氏がアームストロング氏にさまざまなちょっかいを出すわけだが、
(表面上?)アームストロング氏は意に介さないそぶりを見せる。
その様子はまるで、体育は常に“5”だが他の教科は全滅の小学生が、
体育は“4”でも他の教科も万遍なく“5〜4”の秀才タイプのクラスメートに
『ガリベン野郎!』と悪態をついている姿を見ているようでもある。
また下巻では、飛行後にマスコミや政治家、
あるいは熱心な信奉者とアンチの集団に追い回され、
NASAを辞し、飛行士としての職も失い、
社会の表舞台から距離を置かざるを得なくなった
『現代の英雄』の悲哀が胸に刺さる。

翻訳は下手ではないが、あまり上手とも言えず。
(想像するに、下訳の文章の推敲不足や誤訳のチェックが甘かったのだろう)
また上下巻で900ページを超える大冊であるので、読破には少々てこずったが、
この作品以上のニール・アームストロング氏の伝記は望めないと思う。
もし貴方が宇宙開発史に興味がおありなら、是非御一読を。
READING PESOGIN
## 誤訳を疑いながら読む大作は、辛かったなあ。

## 宇宙開発の話になると、
## 語りたいことがあり過ぎて ...
## 本稿、長くなり過ぎました。

*** 追記 ***
本書を読了したのが2,012年8月11日。
その僅か2週間後、よもやニール・アームストロング氏の訃報を耳にしようとは ...
本書を手に取ったのは全くの偶然、気まぐれであったのだが、
虫が報せたのだろうか ... ?

私如きが申し上げるのもおこがましい事だと存じますが、
それでも申し上げずにはいられません。
貴方は私にとって、間違いなく20世紀最高のヒーローでした。
心より御冥福をお祈り致します。


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