英国児童文学界の重鎮、ロバート・ウェストールの作品。
本書は、氏にカーネギー賞をもたらした名作『“機関銃要塞”の少年達』の
続編にあたるそうだが、ストーリー上に直接の関連性は無いようで、
前作を未読の私でも充分楽しめた。
物語の舞台は1,943年頃の英国北東部。
著者の故郷であるタインマスをモデルにした架空の小さな港町ガーマス。
この港町のすぐ沖合で、連合軍の戦略物資を積んだ輸送船が、
待ち伏せしていたドイツのUボートに撃沈されてしまう。
輸送船の積荷や航海スケジュールといった情報は秘密のはずなのに。
入港直前の輸送船の情報をどうして、敵は入手できたのか?
港で、暗号めいたメッセージと電波信号発信器を載せたボウルを拾った
16才の少年チャス・マッギルは、街にドイツのスパイが潜んでいるとにらみ、
仲間たちと共にスパイ探しを始める。
最初、それは子供らしい冒険に過ぎなかったのだが ...
少年たちの冒険を通して描かれたのは、当時の英国の世相そのものであった。
今なお色濃く残る英国の身分制度の弊害。
戦争で故国を追われ、英国に助けを求めた避難民らとの軋轢。
そして、身分違いの家系の娘との間に芽生えた淡い恋。
信用していなかった大人が、実は信用に足る人物であり、
無条件に信頼できると思い込んでいた大人に裏切られ、
遂には自らの思慮不足から死人まで出してしまう。
もう誰も信用できないと絶望する少年チャス。
最後に唯一、血脈の絆に救いを見出すのは、パンドラの箱に残された希望だろうか。
チャスの未来に幸あれと祈らずにはいられないラストであった。
港の沖合を数か月に渡って遊弋していた敵の潜水艦を駆逐できないほど、
英国海軍は無能なのかという突っ込みは置いておこう。
ちなみに『ブラッカムの爆撃機』と同様、カバー絵と挿絵はあの宮崎駿氏。
この作品をスタジオ・ジブリがアニメ化したら、さぞ面白かろうなあ ...
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