Bookshelf TOP MENU に戻る
Bookshelf '11年 TOPPAGE に戻る

### Recent UPDATE ###
### 15.Dec.2,011 ###


REVIEW 11-009へ REVIEW 11-010 REVIEW 11-011へ

不死細胞ヒーラ
ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生
レベッカ・スクルート 講談社

タイトルだけを見ると、まるで安手の S.F. 小説のように感じられることだろうが、
とても読み応えのあるノンフィクションである。

ヒーラ / HeLa”とは、本書の主人公の本名である
ヘンリエッタ・ラックス / Henrietta Lacks” に由来する。
タバコ農場で長く働き、1,951年に子宮頚癌のため32歳の若さでこの世を去った彼女は、
全く無名の黒人女性であるが、本人の同意無しに彼女の身体から摘出された癌細胞は、
後に“HeLa細胞”として、医薬界では知らぬ人がいないほどの存在となった。

生物の正常な細胞は、遺伝子に組み込まれたテロメアと呼ばれる部分に拠って
分裂回数が決定される。 細胞が分裂する度にテロメアが短くなり、
その長さが限界を下回ると(ヘイフリック限界を迎えると)、
もはや細胞は分裂する力を失い、死を迎えることになる。
ところが癌細胞にはテロメアを修復する酵素テロミナーゼを生成する力があり、
条件さえ整えば癌細胞を無限に増殖させる原動力となりうる。
ヘンリエッタの身体から無断で採取された癌細胞の培養は成功し、
世界初のヒト不死細胞となった。

それだけでは無い。
後に“HeLa細胞”として広く知られる事になる彼女の癌細胞は、
ヒトの正常細胞の基本的性質を数多く残しており、
しかも生命力が旺盛で培養が容易でもあったため、
ポリオのワクチン開発用試料などに多用された。
さらに新薬等の追試用試料としても重宝されるに到り、
遂には医薬試料のスタンダードと見なされるまでになる。

実験者のバイオ・ハザード・モラルの低さに因り、周囲の実験試料を汚染した事で、
貴重な時間と膨大な資金を無駄にする事件も起こした“HeLa細胞”であったが、
その有用性は揺るがず、現在でも広く利用されている。

ところが“HeLa細胞”を無断で採取されたヘンリエッタは今だ無名の
一黒人女性に留まり、残された遺族は医師にも罹れぬ酷貧に喘ぐ始末。
“HeLa細胞”を培養する製薬会社が毎年、多額の利益を計上し続けているにも関わらず。

それには、1,950年代の医師のモラルのレベルや、インフォームド・コンセントと
患者のプライバシー保護に関する認識の薄さ。そして何より患者が黒人であった事など、
時代として仕方が無い部分も多いと思うが、埋葬地すら定かではない彼女の
細胞のおかげで救われた命の数を想うとき、彼女への扱いが残念でならない。

本書は“ヘンリエッタ・ラックスの生涯”、“HeLa細胞の意義と功罪”、
“ヘンリエッタとその遺族を探す著者の旅の記録”が複雑に絡み合い、
一つの長い物語がタペストリーのように織り上げられる構成である。
その為、時に時制が前後することもままあり、読んでいると
少々混乱する場合もあるが、翻訳が巧みでとても読み易い。
ハード・カバーで450ページを超える大作であるが、是非御一読を。
READING PESOGIN
## 2,011年に私が読破した書籍の内、本書は
## 間違いなくベストにランクされるであろう。
## HeLa細胞の染色写真を贈呈された遺族が涙するシーンは圧巻

REVIEW 11-009 へ REVIEW 11-010 REVIEW 11-011 へ

Bookshelf '11年 TOPPAGE に戻る
Bookshelf TOP MENU に戻る