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### 15.Dec.2,011 ###


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帰ってきた二式大艇
海上自衛隊飛行艇開発物語
碇 義郎 光人社

メイン・タイトルだけを読むと、終戦直後に米国に接収され、米国本土でテスト、
保管されていた川西・二式大艇の、日本返還に到るまでのドキュメントかと勘違いしそうだが、
さにあらず。 終戦後から禁じられていた航空機産業の再開後、陸上運用型の大型対潜哨戒機
P-2V7の戦力化と相前後して導入された大型対潜哨戒飛行艇PS-1、PS-1を改修して
陸上運用も可能にした救難飛行艇US-1/US-1Aとその近代改修型US-2の開発物語であった。

飛行艇にディッピング・ソナー等を搭載し、陸上運用型の対潜哨戒機では不可能な
任務を担当することで、対潜作戦(ASW)の相互補完を目指したUS-1ではあったが、
使い捨て機器のソノブイの低廉化、高性能化に対し、US-1に搭載したディッピング・ソナーの
性能向上は思うに任せない。 ASWにおいて飛行艇ならではの局面が発生しない以上、
US-1の減勢は必然であったろう。 対潜哨戒飛行艇から救難機型への仕様変更もまた必然か。
日本が海洋国家である以上、救難飛行艇の有用性は論を待たないが、自分としては
保有機数と巡航速度の遅さが気にかかる。 また、文中でも指摘されたとおり、
消防飛行艇(ウォーター・ボマー)が配備さえされていれば、先の阪神淡路大震災等で
火災被害の局限化ができたことだろうと思うと残念でならない。

これもまた本文で軽く触れられている事だが、US-1/2が救難や消防に有効な機体であるならば、
輸出を考えても良かろうにと思うのだが、国是である武器輸出3原則とのカラミもあってか、
未だに実現しないようではある。 本文中にこの点に関する記述があまり多くないのは、
著者の関心の重心を技術開発史に置きたかった為か、あるいは政治的に微妙な問題を
回避する為だったのか? 個人的にはもう少し詳述をお願いしたかったところだ。

詳述をお願いしたかったと言えばもう一点。
PS-1の開発においては様々な便宜を図ってくれながら、
P-2V7の後継機(PX-L)開発に関しては、ASW機材は米国製機器を輸入する代わりに
機体の自主開発を望む日本に対して、ASW機材と機体(P-3B / C)のパッケージ導入を譲らず、
遂にPX-Lエアフレーム国産化計画を御破算に追いやった、米国のダブル・スタンダード
政策に関しては、殆ど触れられていなかったのが残念であった。

文中、『日本独自の技術』等、日本人のナショナリズムをくすぐるような記述が散見され、
日本人として悪い気はしないが、現代において飛行艇を作り、実際に運用している国は
さほど多くはないはずだ。 これが何を意味するのか。 飛行艇の実用化が難しい為か、
あるいは飛行艇が時代遅れの産物なのか、そこをまず見極めない事には、
世界に冠たる『日本独自の技術』とやらも“ぬか喜び”に終わってしまう危険性も感じた。
READING PESOGIN

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