最初は小さな異変に過ぎなかった。
長年省みられることも無かった小壜に封じられていた微量のタングステン186が、
この宇宙には存在する筈の無い物質であるプルトニウム186に置き換えられていたのだ。
どうやら我々の宇宙とは物理法則の異なる平行宇宙
(パラレル宇宙、作中ではパラ宇宙と略して表記される)から
送り込まれたプルトニウム186は、この宇宙において不安定な物質であり、
原子核から陽電子を放出する事で安定物質であるタングステン186に変化する。
同様にパラ宇宙では、タングステン186がプルトニウム186に変化する事で
エネルギーを得る事になる。
この安価で無公害な物質は無尽蔵のエネルギー源として歓迎され、
遂には両宇宙を接続してエネルギーを交換する“エレクトロン・ポンプ”が出現。
パラ宇宙からもたらされた福音のおかげで、人類はエネルギー問題を
克服したかに見えたのだが、実は両宇宙を破滅に追いやる危機が ...
という粗筋。
驚いたのは第2部。
ここでは、我々の宇宙にプルトニウム186を送り出したパラ宇宙の生命体の
生態が描かれるのだが、これがまあ、あの謹厳実直なアシモフの筆とは思われないような
“種族繁栄の為の儀式”を(もちろん上品なオブラードで包んではあるのだが)
描き出したものであった。
氏は、著書“夜明けのロボット”で、もっと直裁的なエピソードを描いているのだが、
その源流はここにあったようだ。
1,972年に発表された本作品は、今となってはやや古めかしさを感じるが、
安価なエネルギー源を手放せなくなってしまった両宇宙が、
いかにして破滅の危機を回避せんとしたか、是非御自身で確かめて頂きたい。
|