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### 05.Dec.2,013 ###


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戦艦大和誕生
西島技術大佐の大仕事 (上巻)
「生産大国日本」の幕開け (下巻)
前間 孝則 講談社

本書のタイトルから想像するに、戦艦大和の生みの親である
“軍艦設計の天才”、“軍艦の神様”とまで呼ばれた平賀譲氏、
あるいは平賀氏の後任となりながら『友鶴』転覆事件等の責任を取る形で失脚した
(詰腹を切らされた)藤本喜久雄氏の足跡を辿った通史かと思いきや、さにあらず。
呉海軍工廠における戦艦大和建造時に船殻主任を務めた“軍艦造りの名人”
西島亮二造船官(階級省略)の業績を辿りながら俯瞰した帝国海軍造船史であった。

費用対効果を考慮せずに済む“親方日の丸”式の建艦方式がまかりとおっていた
軍艦造船の世界に初めて科学的、論理的な生産管理手法を取り入れ、
工数(=費用 & 納期)の短縮、生産性の向上を図った西島造船官。
艦艇の建造に用いる材料や金物部品の統一・標準(制式)化、
工事の効率化に大きく寄与した能率曲線、俗に“西島カーブ”と呼ばれた
独自の工数管理法の考案と実践等、西島造船官の業績には枚挙の暇が無い。
しかも西島造船官の生産管理手法は、自身の試行錯誤の経験から編み出した
独自の管理法であったのには驚嘆する。
さらにブロック建造法や先行艤装、従来はリベット(鋲接)工法主体であった
船体構造に電気溶接法を大幅に採用する等、それまでは先任者の経験や勘、
先例に頼っていた世界を覆すものだった。
それゆえ、上司上官との間の軋轢は相当のものがあったと云う。

1,922年締結のワシントン海軍軍縮条約、1,930年締結のロンドン海軍軍縮条約により、
主力艦建造に制限を加えられた日本帝国海軍。 保有量の多寡はあったものの、
主力艦の建造制限は他の列強諸国ともイーブンな国際条約ではあったが、
海軍の歴史か浅く、主力艦の艦齢が比較的浅かった日本海軍にとっては事実上、
主力艦の新造を禁止されたも同様であった。
軍艦の保有量の不平等に不服であった日本は1,934年、
ついにワシントン条約から単独脱退。
続く1,936年にはロンドン条約からも脱退するに至り、
後に“大和”、“武蔵”の名で知られることになる新型主力艦建造の気運が高まるものの、
ワシントン、ロンドン両条約下で主力艦建造を休止している間に科学技術が急進し、
戦争の主力はもはや戦艦ではなくなろうとしていた。
特に航空機の発達が顕著であり、それを証明して見せたのが、
真珠湾を奇襲した当の日本帝国海軍であったのが、
言い古された事実ではあるが、なんとも皮肉であった。

それでも大艦巨砲主義を貫き、太平洋戦争に突入した日本海軍。
四方に艨艟を浮かべたものの、前線に兵員や武器弾薬、食料、医薬品等を届け、
また内地へ燃料、資源を運ぶ商船(輸送船)の不充足は隠しようも無い。
商船の管理管轄は逓信省であり、海軍の意向で増産させられなかった為である。
太平洋戦争突入後、海軍は商船の管轄を逓信省から奪い、西島造船官の
指導の元に商船の増産を図るものの、泥縄造船のそしりはまぬかれないだろう。
必要量には届かなかったにせよ、それでも商船の増産は為されたのは立派である。
また、この時の経験が西島式生産管理法を日本全国に広める結果となり、
敗戦後わずか11年にして日本を造船量世界一の造船王国たらしめたという。

21世紀に突入した現在、トヨタ自動車のカンバン方式に代表される
日本式生産管理手法は行き着くところまで行き尽くし、
もはや過飽和(下請けイジメ)の感さえあるが、そのルーツには、
西島亮二氏が編み出した生産管理方式と戦艦大和があった事は、
日本人として記憶に留めておくべきであろう。
READING PESOGIN

## ハードカバー2分冊は読破するのもハードだったが、
## 文章は平易で読み易い。 是非御一読を。

## 日本の為に軍艦 / 商船の建造に尽力された
## 西島亮二氏は、終戦により海軍の後ろ盾を失い、
## 海軍対逓信省の縄張り争いのとばっちりを喰らうかたちで
## 造船の表舞台から降りざるを得なかったらしい。
## 自ら建造した船に乗って落命された方々への
## 負い目、引け目もあったことだろうが ...
## 終戦後に花開いた彼の偉業を考えるとき、
## もう少しなんとかならなかったものだろうかと想ってしまう。

*** ハードカバー *** *** 文庫版 ***


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