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### 24.Dec.2,011 ###


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隠された証言
日航123便墜落事故
藤田 日出男 新潮社

自分勝手な思い込みではあるが、日本人として
忘れてはならない日が8月には4日あると思っている。
広島、長崎に原爆が投下された6日と9日。
太平洋戦争の終戦記念日である15日。
そして8月12日。
1,985年8月12日18時56分頃、ほぼ満席状態であった
日本航空のボーイング747SR / レジストリーNo, JA8119 が、
日航123便として東京・羽田空港から大阪・伊丹空港に向かう途中、
迷走の末に遭難。 群馬県上野村の御巣鷹山の尾根に激突し、
乗員乗客合わせて520名(他に胎児1体)が犠牲となった。
単独機事故としては航空史上最悪のものだと云う。

あれから25年が過ぎ、残念ながら事故の記憶も風化の道を辿りはじめてはいる。
それでも今年、政権与党の交替のおかげか、国土交通省の前原大臣が、
閣僚として初めて慰霊登山に参加する等、事故の記憶をリフレッシュする機運が、
一時的なものではあるかも知れないが高まっていたようにも感じられた。
自分なりにあの事故原因を総括したくなり、手にしたのが本書である。

国土交通省航空・鉄道事故調査委員会。 略称『事故調』がまとめた
日航123便事故調査報告書に関しては、最終報告書の発表前後から、
多方面からの疑義が喧伝されていたように思う。
まるで、米国ボーイング社から提供された『後部圧力隔壁の修理ミス』
情報に追従するかの如く、飛行中に圧力隔壁が破断したことに因る
垂直尾翼倒壊説に固執し、圧力隔壁破断時に当然発生するはずの
キャビン内急減圧など体験しなかったという生存者の証言を無視。
生存者証言と調査報告書の間の矛盾に関する合理的な説明の無いまま
最終報告書が提出され、事故調査は事実上終了となった。
それを潔しとせず、個人的に日航123便事故の疑問点を洗い出し、
調査を継続する有意の士の一人が著者である。

本書の、圧力隔壁破断 - 急減圧シナリオに関する考察は論理的かつ科学的で、
生存者証言との矛盾は明白であるとの主張には説得力がある。
この1点においてさえ最終報告書の不備は明らかであり、
事故原因の再調査は必然であると私も思う。
穿った見方かもしれないが、もしも事故の主原因が
『後部圧力隔壁の修理ミス』に起因するものでないとすると、
ボーイング747にはなんらかの構造的欠陥を内包している疑いが浮上しかねない。
仮にそれが事実であるならば、欠陥が是正されないままの巨人機が、
今も世界の空を飛び回っていることになる。
それこそがボーイングが恐れた最悪のシナリオではなかったのか。
社命を賭けたボーイングの隠蔽工作に事故調は利用されたのだろうか。
下衆の勘ぐりであれば良いのだが ...

コックピット・ヴォイス・レコーダーを精査した結果、
衝撃音が記録される直前(約1/4秒前)から8〜16Hzの低周波が記録されており、
これは方向舵のフラッター現象を記録したものと想像されるという。
機体自体が発する空力的な異常音が、衝撃音の前に記録されていたことから、
著者はミサイルや無人機との空中衝突説には懐疑的ではあるようだ。
だが、事故直後の自衛隊の初動が妙に早かった事、
その割には事故現場の特定が遅れた事、
事故翌日の朝までヘリコプター等を使った救助作業が行われなかった事、
そして米軍の救助支援の申し出を断ったこと等から、
いわゆる『自衛隊 / 米軍謀略説』を完全に否定する立場にはないとも読み取れる。
その点において、本書で開陳された著者の主張の全てに賛同するわけではないが、
推測のみで固められた『謀略説』とは違う論理的なアプローチは信頼できると思う。
事故から25年が過ぎ、事故機から脱落して相模湾に沈んだはずの部品の一部も
ヘドロに呑まれたりして、回収は一層困難になっていることだろうが、
事故原因の究明のため、徹底的な海底調査を私も望む。
事故原因を徹底的に究明し、同種事故の再発を防ぐことこそが、
犠牲者への最大の供養だと信じるから。

それにしても、幾重にも張られた油圧系統の全てを同時にダウンさせ、
一瞬にして垂直尾翼を倒壊させるような事故の原因は、
一体何だったのだろうか ... 私ごときが述べるまでもなく、
それが解明されない限り、事故で亡くなった方々と
その御家族の方々らの御無念は晴れないことであろう。
READING PESOGIN

## 飛行機は安全に飛ばすものであって、落すものではない。
## 1,985年8月12日、フル・アフターバーナーで百里の
## 夕空に突き刺さっていった、アラートのF-4EJ2機の爆音を聞き、
## 後日、遺族の空中参拝をスゲノ沢の底から見上げた身にとっては、
## 忘れられない事故なのだよ

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