去る2,009年03月20日、わずか30代半ばの若さで他界された伊藤計劃氏の第一長編作品。
お恥ずかしい話だが、新聞の書評欄でこの作品を初めて知り、評判の高さに驚き、
慌てて読んでみた次第。 その評に恥じぬ逸品であった。
物語の舞台は、米国を襲ったあの9.11テロ直後の近未来。
モスレム原理主義者が自作の戦術核爆弾を用いてサラエボを消滅させるに至り、
世界は、安全保障が徹底し裕福な生活を享受する国家群と、
不安定な安全保障の下に貧困に喘ぐ国家群との二極分化の度合いを深めていた。
その発展途上国の中にあっても、善政を敷き、産業を興し、貧困からの脱出を図る国があった。
そうした国々で突然、善政を敷いていたはずの為政者が、自国民を虐殺する事例が頻発。
調べてみると、それらの事件には必ず、ジョン・ポールという平凡な名を持つアメリカ人の
影が見え隠れするという。 そもジョン・ポールとは何者で、その目的は何か。
かくして、暗殺専門部隊であるアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の指揮官である、
“ぼく”ことクラヴィス・シェパード大尉の一人称で語られる物語が滑り出す。
敵と味方は一枚の写真のネガとポジ。 違いは国家の負託を受けているか否かでしかない。
そしてやや唐突な感もあるエピローグでは、写像が鏡像反転してしまう皮肉。
本作品は、角川春樹事務所が主催する第7回小松左京賞に応募された
同名の作品に、単行本を機に加筆修正を加えたものであるという。
『虐殺器官』は第7回小松左京賞応募作品中最高得点をマークするも、
意外なことに同賞は『該当作品無し』で閉じられた。
巻末の、大森望氏の『解説』で紹介された小松左京氏の選評(抜粋)によると、
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### 以下、引用 ###
伊藤計劃氏の「虐殺器官」は文章力や「虐殺の言語」のアイデアは良かった。
ただ肝心の「虐殺の言語」とは何なのかについてもっと触れて欲しかったし、
虐殺行為を引き起こしている男の動機や主人公のラストの行動などにおいて
説得力、テーマ性に欠けていた。
### 以上、引用終わり / 改行位置を変更させて頂きました ###
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とある。 本作品を純粋なSFとして読むならば、確かに肯ける部分もあるが、
それだけで括れる作品でも無い。 あえてジャンル付けをするならば、
繊細な文体で綴られた近未来国際軍事謀略小説(?)となるのだろうか。
ぜひ御一読を。
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