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### 24.Dec.2,011 ###
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REVIEW 10-014 |
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幻のレーダー ウルツブルグ
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津田 清一
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CQ出版社
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“ゾフィー21歳”に続き、またもドイツ第3帝国絡みのドキュメント。
第2次世界大戦中の欧州では、レーダー、敵味方識別装置、電波欺瞞紙(チャフ)や
妨害電波発生装置を用いた初歩的なE.C.M.などの電波兵器が盛んに用いられていた。
欧州の戦争当事国のうち、電波兵器の研究がもっとも進んでいたのは英国であったという。
英国の後塵を拝していたナチス・ドイツではあったが、大砲や高射砲の照準装置に
レーダーを組み合わることによって、光学照準以上の実績を挙げていた。
対する日本帝国軍では、基礎工業力の低さに加え、その保守的な土壌や新技術への無知
無関心もあり、電波兵器への感心が薄く、欧米の技術水準から大きく水をあけられていた。
その為、開戦間近となった時点においてさえ、日本には実用に供せられるレーダーなど
1つも無かった。 日本は、いまだ研究段階であったレーダーの実用化を急ぐとともに、
欧州戦線で実績を挙げつつあるドイツ・テレフンケン社製ウルツブルグ・レーダーの
国産化を画策。 研究・生産見本用のウルツブルグ1台と、生産に必要な図面資料一式を
潜水艦に積んで日本に送り出したものの、輸送途中に触雷で沈没し、失敗。
(この件は吉村 昭氏の著作“深海の使者”に詳しいと云う)
輸送失敗の遅れを取り戻すべく、テレフンケン社の有能な技師であるH.ホダス氏を、
ドイツから潜水艦で招聘するものの、別途送った生産用図面資料はまたも届かず。
やっとの思いで、終戦までに作り上げたウルツブルグは僅か、試作機1台と量産型5台。
うち1台を東京都世田谷区久我山の高射砲陣地に設置したところで敗戦となった。
本書は、ウルツブルグ国産化の顛末と関係者、特に、戦時下において単身日本に赴いた
テレフンケン社技師 H.ホダス氏の戦後を描いたドキュメント。
著者である津田清一氏は、日本無線株式会社の技師としてウルツブルグ国産化の
総合計画を担当された方であり、本書の執筆には最適任の人物である。
終戦時の命令に因り、惜しくも技術資料の全てを焼却廃棄の止む無しに至った事から、
本書の執筆は困難を極めたとの事。
戦禍に埋もれた技術秘史であり、不屈のヒューマン・ドラマでもある本書は、
やや文体が硬く、また専門用語が古めかしいこともあって、
少々読み難いきらいはあるにせよ、存在自体が奇跡であり、貴重である。
戦時の技術秘史に感心がある方には特にお薦め。
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## 機会があったら、吉村 昭の“深海の使者”も再読してみよう
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REVIEW 10-014 |
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