『宇宙エレベーター』 ... と云われて『ピンっ!』とこなくても、
『軌道エレベーター』と云われれば、『ああ、あれね』と仰る方は多いかもしれない。
昨今では『軌道エレベーター』とは呼ばず、どうやら『宇宙エレベーター』と呼称するのが
世の趨勢であるらしい。
充分な長さを持ち、軽くて強靭な『糸』を地球の静止軌道上に用意する。
糸の一方の端を地球に向けて繰り出し、もう一方の端は180度正反対の宇宙空間へ、
バランス良く送り出す。 『糸』が地表に届いたら、何らかのアンカーに固定し、
さらに伸ばしたもう一方の端には、地球の自転によって生じる遠心力に見合った
カウンター・ウエイトを括り付ける。 かくして人類は、地表から垂直に浮かんだ、
宇宙に届く『糸』を手に入れることができる ... という寸法だ。
この『糸』さえあれば、宇宙ロケットなどという効率の悪い乗り物を使うことなく、
人員物資を『地球』という重力井戸の底から、宇宙に持ち上げる事ができるようになる。
ロケットと比べて、驚くほど安いコストで。
本書には、軌道エレベーター(とあえて表記させて頂く)によってもたらされる
薔薇色の未来が事細かに述べられている。 既存の技術を組み合わせることで、
その夢の未来は既に実現可能な段階にあり、本書の主張するところでは、
条件さえ揃えば 2,030年代にも実現可能なのだそうだ。
但し本書には、肝心の『糸』の生産技術に関する説明は無く、現時点における、
10万キロメートルにも及ぶカーボンナノチューブ製の『糸』の生産の目途に関する
情報は全く得られない。 これでは『薔薇色の未来』とやらも
『絵に描いた餅』以外のなにものでも無いと思うが、如何か。
また、たとえ技術的には充分可能であろうとも、軌道エレベーターの建設には
地政学上の問題やら国家間の利害・政治力学、利権等が複雑に絡みこむであろう事は
容易に想像がつく。 その複雑さは、スエズ / パナマ運河建設の比ではなかろう。
たとえ技術的には充分可能であろうとも、政治に足を引っ張られ、今世紀中には
軌道エレベーターの着工すら無理だと予想するが、ペシミスティック過ぎるだろうか?
本書に描かれてい『前向き』な未来図は、あまりに楽天的、楽観的過ぎると思えてならない。
一般向けの啓蒙書、とりわけ科学・技術系のそれは、かくあるべきだとも思うが ...
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