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### 26.Dec.2,011 ###


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 海軍航空隊始末記 
源田 實 文藝春秋
文春文庫

“グイン・サーガ”が7冊続いて流石に疲れたので、少し目先を変えようと手にした1冊。

著者である源田 實氏に関して、説明は不要であろうが、一応触れておくと、
太平洋戦争開戦時には空母赤城の航空参謀を務め、終戦間際には第343海軍航空隊、
通称『剣部隊』の指揮を執り、戦後は航空自衛隊幕僚長、後には参議院議員としても
活躍された硬骨漢、と申し上げれば、御記憶の方も多いことだろう。

本書は、昭和37年に文藝春秋新社より刊行された『海軍航空隊始末記 戦闘篇』を
改題したもので、太平洋戦争前夜から終戦までを扱ったもの。
本書には姉妹篇である『海軍航空隊始末記 発進篇』が存在し、
こちらは著者の出生から日華事変(日中戦争)を経て、
イギリス在勤帝国大使館付武官補佐官兼航空本部造兵監督官として
渡英するまでを著してあるようで、本書の直接の前編にあたるようだが、詳細不明。
『海軍航空隊始末記』は『発進篇』、『戦闘篇』共に長らく絶版であったが、
『戦闘篇』だけでも再販になった事は素直に喜ばしい。

本書は、筆者が英国に赴任した時点から書き起こされ、真珠湾からミッドウェイ海戦、
マリアナ海戦を経て、終戦直後に編成した剣部隊の終焉までが描かれている。
その視線は徹頭徹尾、作戦参謀のそれであり、太平洋戦争の是非に関しては
全く触れられていない。 参謀の職責は、個々の戦闘における作戦の立案であり、
与えられた資源と戦力で、目前の戦闘に勝つ工夫をするのが職務であって、
非戦 / 開戦の決定権は彼には無い。 戦前に英国へ渡り、彼我の戦力差を
目の当たりにした筆者には、日米開戦を決定した権力者に、辛らつな言葉の一つも
投げたかった事だろうと思う。 だが、そのような仄めかしすら見当たらない。
その一方、戦死していった無名兵士への哀悼の言葉も無い。
自らに課せられた責務を忠実に果たされた訳ではあるが、自らが立案した作戦の結果、
尊い生命を落とされた、幾万の兵士への哀悼の辞くらいはあっても良さそうな気はするが。
ともあれ、自らの感情を極力交えず、自らが体験した事実のみを淡々と綴ろうとした、
その姿勢は評価されるべきであり、戦争遂行当事者によって著された本書は、
戦史の一次資料として極めて貴重なものと断言して差し支えないであろう。

太平洋戦争は愚かな戦争であったと言うのは容易い。
だが、そうした紋切り型の軽い台詞だけで、我々は同じ過ちを未来永劫、
絶対に繰り返さないと誰が断言できようか。
これらの貴重なドキュメントをいかに活用し、未来に繋いでゆくか、
残された我々に課せられた責務は重い。
READING PESOGIN

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