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### 26.Dec.2,011 ###


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アーヴァタール (上 / 下)
ポール・アンダースン 東京創元社
創元推理文庫

アーヴァタール。 原題は"The AVATAR"。
現代風に表記するならば『アバター』となるのだろうか。
一時期インターネット上で流行した『(ユーザーの)化身』のことである。
実はこの作品、昨年の9月頃から読み出したのだが、途中でホームページの更新を始めた
(全ファイルの構造を見直したため、足掛け3ヶ月を要した)りしたこともあり、
たかが文庫本・上下巻2冊を読みきるだけで半年を要してしまった。
これほどてこずった書籍は久しぶりである。

地球の公転軌道上、太陽を挟んで地球とは正反対の位置に、巨大な人工建造物が浮かんでいた。
T-マシンと名づけられたその構造物は、地球に知的生命体が生まれる前から存在しており、
その外形は全長1,000Km、直径2Kmの円筒形。
円筒の中心軸を回転軸に高速回転していて、周辺部の回転速度は光速の3/4に達する。
T-マシンは、後にアザーズ(異存在)と仮称されることになる種族によって宇宙の各地に設置された。
地球とT-マシンの間には常に太陽が位置するため、地表からの直接的光学観測では
T-マシンを発見することは不可能であった。 明らかにアザーズは、地球に発生した
知的生命体が宇宙に進出するまでT-マシンの存在を秘匿しようとしていた事になる。
T-マシンを直接観測するために派遣された宇宙船“ディスカバラー”号が
T-マシンに接近した刹那、T-マシンのA.I.が起動。
T-マシンの基本的なチュートリアルを地球側に送信してきたのである。
それによるとT-マシンは超空間ゲートであり、ある決められた軌道パターンで宇宙船が
T-マシンに接近したとき、遠く離れた宇宙の定められた位置に転移することができるという。
その証拠として人類は、人類の生存に適した、知的生命の存在しない惑星をひとつプレゼントされ、
T-マシンを使ってその惑星へアプローチするためのコースを教えられる。
かくして人類は、労せずして超光速航法を手に入れたものの、以後T-マシンのA.I.は沈黙し、
その他の星系への路は閉ざされたままとなる。 (以降は自分たちで検証せよ、という事らしい)

以上、基本設定がなにやら“2,001年宇宙の旅”を彷彿とさせるもので、
大変期待して読み始めたのだが、とにかく話が進まない。
上巻まるまる一冊を使っても、ほとんどストーリーが進まないのには閉口させられた。
それは翻訳者も自覚していたようで、上下2分冊の場合、通常下巻の巻末に
掲載されるであろう『訳者あとがき』が、上巻の巻末に持ってこられた事でも判る。
確かに上巻で話が進まなかった分、下巻の読み心地はジェットコースターというか、
地獄巡りというか、同じ著者の作品である“タウ - ゼロ”をちょっと思い出すような
展開ではあったが。

結局、著者は何を描きたかったのだろう。 キリスト教徒の西欧文化人が描く
オリエンタル風味の仏教的宇宙観かとも思ったが、どうやら穿ちすぎだったようだ。

作中、汎証工学(ホロシーシス)という設定が登場する。
汎証工学の専門教育を受けた者の中、特別の素質を持っている者だけがなれる
汎証工学者(ホロシート)。 各種センサー等から得た情報を整理、統合したコンピューターに
自らを接合(汎証接合 / ホロセティック)することで、宇宙の姿をよりダイレクトに理解、
いや直感的に感じ取るのが汎証工学者(ホロシート)である。
機械を介して宇宙に直接繋がる訳だが、これは云わば相手をより深く知る手段としての
性行為の暗喩ではあるまいか? 終幕で旅の一行は遂にアザーズ(異性の暗喩か?)と
出会う訳だが、アザーズが選んだのは機械仕掛けのホロセティックではなく、
一行のまとめ役だった自由恋愛主義者のヒロインだったのは皮肉ではあった。
機械仕掛けで宇宙と交わるホロシートに導かれた宇宙船内で、
人類が人類として存在するために必要な営みとはいえ、
乗組員が恋愛ごっこに興じる図、というのは、何を暗喩しているのやら、よく判らない。
生命の種子を宇宙に拡げるのは機械仕掛けでは駄目で、自然の力に委ねるのが最良の方法、
などというベタな自然賛歌、人類賛歌ではないだろうし。 

昔読んだ“タウ - ゼロ”は大変面白かったが、本作は正直退屈でしかなかった。
どうやら私は、ポール・アンダースン氏との相性は良くないようだ。
READING PESOGIN

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