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### 26.Dec.2,011 ###


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手焼き煎餅の密室
谷原秋桜子
(Shouko Tanihara)
東京創元社
創元推理文庫

“グイン・サーガ”の続きを読まねばならぬ、とは思うものの、
どうにも食指が動かない。 こういう時はジタバタしても仕方が無い。
栗本女史には申し訳ないが、気が向くまで“グイン・サーガ”は中断。
アリステア・マクリーンの“孤独の海”に引き続き、手にしたのが本書。

本書は谷原秋桜子(たにはら・しょうこ)女史の第4作で、かつては富士見書房の、
ライト・ノヴェルのレーベルのひとつである富士見ミステリー文庫から刊行された、
“激アルバイター・美波の事件簿”シリーズの第4作にして、初の短篇集にあたる。
当初、ライトノヴェルとして著された作品ではあったが、
その枠内に収めるだけでは惜しい、しっかりした推理小説でもあった為か、
後に第1作“天使が開けた密室”と第2作“竜の館の秘密”が、
東京創元社の創元推理文庫に再録され、暫く中断の後に、
第3作“砂の城の殺人”も同社から刊行された。
(こうした経緯は、本書の巻末の日下三蔵氏の『解説』に詳しい)

かわいらしいカバー絵に釣られて手にした“天使が開けた密室”が
すこぶる面白かったので(特にタイトルが秀逸)、本シリーズは注目していたが、
なかなか新刊のアナウンスが聞かれず、やきもきしていた。
やっと書店に並んだ新刊を見て一安心、といったところだ。
ミギーさん描くところのぽわぽわしたカバー絵と挿絵は今回も健在で、
棚に平積みされた本書のカバー絵を見たとたん、購入を決意させられていた。
## カバー絵に釣られるようでは、ワシもまだまだ修行が足りんか、のう ...
本書は以下の5篇を収録。
  • 旧体育館の幽霊
  • 手焼き煎餅の密室
  • 回る寿司
  • 熊の面、翁の面
  • そして、もう一人  (この一篇のみ書き下ろし)
いずれも“天使が開けた密室”事件に先立つエピソードで、
主人公“倉西美波”とその親友“立花直海”はまだ中学生。
“倉西美波”らと、もう一人の親友になる“西園寺かのこ”とは出会う前で、
本篇では謎解き役を任される“藤代修矢”ともまだ面識が無い。
そしてなにより、倉西家の隣の洋館の主、“水島啓輔”老人がまだ存命という設定。

本書で取り上げた事件は、推理小説が扱う『事件』としては可愛らしいものばかり
(もっとも人死にが出た事件もあるのだが)で、推理小説マニアには物足りないかもしれない。
だが、推理に必要は材料は本編内に全て、しっかりと散りばめられていて、
材料が全て提示された後、よーいドンで探偵役(この短編集では水島啓輔翁)と読者自身が
謎解き勝負を繰り広げる、推理小説の王道を行く本格的なものばかりである。
しかも、本作品集に収められた一見バラバラな事件たちが、
最後の短い書き下ろし作品によって、ひとつの集積体にまとめられるという
凝った構成は“御見事!”と快哉を叫ぶ他ない。

また、謎解きの他に、それぞれの一篇一篇が、先のシリーズでは語られることの無かった
各キャラクターの内面をより深く掘り下げて描いている点も見落とせない。
特に、先の作品では“ヒネた大学生”であり、ヒロインの“倉西美波”を守る騎士であり
探偵でもある“藤代修矢”のナイーブな内面を描いた高校時代のエピソードは、
本シリーズのファンなら必読であろう。

欠点を挙げるなら唯ひとつ。
“御嬢様”である“西園寺かのこ”が、ヒロイン達が通うことになる普通の高校に、
わざわざレベルを下げて入学する動機付けが、
いささか牽強付会のように感じられる事くらいか。
“御嬢様”が、下々の者どもの通う学校にわざわざ入学してくるとは、
それは私の経験の乏しさ故かもしれないが、どうしても違和感を感じてしまうのだ。
(想像力が足りないと言われてしまえば、それまでだが)

本シリーズは現在、“ミステリーズ!”誌に連載中とのことで、
“激アルバイター・美波の事件簿”シリーズ(と敢えて表記するが)の第5巻も
そう遠くない未来に手にすることができることだろう。
その日が楽しみだ。
READING PESOGIN
## ライトノヴェルか ... NIFTY Serve の FSF2 が懐かしい。

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