Bookshelf TOP MENU に戻る
Bookshelf 09年 TOPPAGE に戻る

### Recent UPDATE ###
### 26.Dec.2,011 ###


REVIEW 09-004へ REVIEW 09-005 REVIEW 09-006へ

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
桜庭 一樹 角川書店
角川文庫

いくら好きなシリーズとは言え、“グイン・サーガ”が2冊続いて疲れを感じたので、
毛色の変わったものをと思い、読み始めた本書。
桜庭 一樹女史の著作 “少女七竃と七人の可愛そうな大人” は中途で挫折したため、
同女史の著作を読むのは初めてとなる。

海野 藻屑と名づけられた、人魚の姫を自称する不思議な美少女の
惨殺体の発見を告げる新聞記事の抜粋から始まる、悲劇が約束された作品。
裏日本の小さな漁港街を舞台に語られる、徹頭徹尾救いの無い物語なのに、
妙にすがすがしい読了感は何なのだろう。

DV、幼児虐待、そして作中で明示されてはいないが
近親相姦の犠牲者でもあったのかも知れない。
虐待の犠牲者でありながら、それでも父親が好きで、父を捨てられない美少女。
父親を愛しているのに、父親から真っ直ぐに愛されない渇きをミネラル・ウォーターの
がぶ飲みでごまかし、自らを人魚の姫と思い込むことで魂の拠り所を得ていた13才の少女。
そのロマンチストの悲劇は、同い年のリアリストの目線で語られる。

『少女の身体は砂糖菓子でできている』と言ったのは誰だったろう。
“砂糖菓子の弾丸”とは、乙女チックな妄想で包んだ、必死の S.O.S. メッセージ。
“撃ちぬけ”なかったのは、周囲にいた善意の人々の心だったのかも知れない。

物語の終幕に洩らされる、担任教師の独白が、妙に心に残る。
(前略)
『あぁ、海野。 生き抜けば大人になれたのに ...』
(中略)
『だけどなぁ、海野。 おまえには生き抜く気、あったのかよ ... ?』
(中略)
生き残った子だけが大人になる。
(後略。 改行位置を変更させて頂きました)

そして、エピローグ。 物語の語り部の少女の独白を御紹介したい。
(前略)
あたしは、暴力も喪失も痛みもなにもなかったふりをしてつらっとしてある日大人になるだろう。
友達の死を若き日の勲章みたいに居酒屋で飲みながら憐情たっぷりに語るような
腐った大人にはなりたくない。 胸の中でどうにも整理できない事件をどうにもできないまま
大人になる気がする。 だけど13歳でここにいて周りには同じようなへっぽこ武器で
ぽこぽこへんなものを撃ちながら戦っている兵士たちがほかにもいて、
生き残った子と死んじゃった子がいたことはけして忘れないと思う。
忘れない。
(後略。 改行位置を変更させて頂きました)

彼女の『強さ』こそが、この救いの無い物語の唯一にして最強の救いであろう。

どうにもうまく纏められないが、評判どおりの名作であった。
是非御一読をお薦めする。
READING PESOGIN

REVIEW 09-004へ REVIEW 09-005 REVIEW 09-006へ

Bookshelf 09年 TOPPAGE に戻る
Bookshelf TOP MENU に戻る