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### 27.Dec.2,011 ###


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「よど」号事件 30年目の真実
対策本部事務局長の回想
島田 滋敏 草思社

今、手元に、朝日新聞 2,004年1月14日の朝刊(第13版)がある。
その社会面の記事を、以下に引用させて頂く。

*** 以下、引用 ***
>> よど号メンバー 子ども6人が帰国
>> 「よど号」ハイジャック事件で北朝鮮に渡った元赤軍派メンバーの
>> 子供6人が13日(管理人注 ; 2,004年1月13日の事)夜、
>> 平壌から北京経由で成田空港に到着した。 子供の帰国は3回目で、
>> これでメンバーらの子供20人のうち14人が帰国したことになる。
>>
>> 帰国したのは、よど号グループのリーダーだった故田宮 高磨幹部の長男(20)、
>> 安部(現姓 魚本)公博容疑者(55) =結婚目的誘拐などで国際手配=
>> の長女(21)と次男(19)、
>> 田中 義三被告(55) =国外移送略取などの罪で公判中= の次女(17)、
>> 元メンバーの柴田 泰弘さん(50)の次女(23)、
>> 死亡情報がある岡本 武容疑者の次女(22)。
*** 以上、引用終わり ***
 (レイアウト上の都合で、改行位置を一部変更させて頂きました)

上の報道等がきっかけとなり、読み始めたのが本書である。

## 北朝鮮で生まれ育ち、日本を見たことすら無いのに、
## 『我々は日本人である ... 望郷の念を抑えがたく、帰国した ...』
## (帰国した「よど号」ハイジャック犯の子女の発言より要旨を抜粋) − も無いもんだ。
## ましてや、彼らの父親は全員、自らの意思で日本国籍を捨て、
## 北朝鮮に亡命しているのだ。
## 北朝鮮籍の子供としか考えられない彼らの、
## どこをどう押したら先の発言が出るのだろう?
## 厚顔無恥は親譲り、ということだろうか。

著者は、日航の現地対策本部長補佐・総括担当として
韓国・金浦空港に赴き、事務局長として「よど号」事件に関わった島田 滋敏氏。
「よど号」事件の全貌を知る、数少ない民間人である。
大阪万国博開催で日本中が華やいでいる1,970年03月31日07:40、
羽田発福岡行きの日航機「よど号」は富士山の上空を飛行中、
『赤軍派』を名乗る集団にハイジャックされ、そのまま福岡に向かった。
「よど号」乗っ取り犯は、福岡での当局の説得に一部応じ、
乗客の一部を解放したものの、要求どおり「よど号」で
北朝鮮・平壌に向かってしまう。
だが、搭乗員と犯人が平壌と信じて到着した先は、韓国の金浦空港であった。
三日間に及ぶ韓国政府当局の断固たる意思に裏打ちされた説得工作の結果、
残りの乗客、客室乗務員と日本政府の山村政務次官を人質交換することで決着。
犯人グループと山村政務次官を乗せた「よど号」は北朝鮮に向かい、
事件は一応の決着を見た。

この事件の最大の謎は、韓国・金浦空港への着陸である。
誰が、何のために『よど号』を韓国に誘導したのか、
事件から30年が経過した現在に至るも謎のままである。
その疑問に対するヒントを本書は与えてくれる。

「よど号」がハイジャックされた地点が、
たまたま米軍横田基地の管制業務担当エリアだったことから、
事件は発生当初から米国の知るところとなった。 
早速情報収集を開始した米国は、二人の米国民が
「よど号」に乗り合わせていたことを知った。
北朝鮮に入国したら最後、彼らは敵国人として抑留されるのは必至である。
北朝鮮の工作員として利用するために、徹底的な思想改造を施すためだ。
彼らを救出するために米韓で仕組んだのが、
韓国・金浦空港への着陸ではなかったのか?
... というのが著者の見方である。

つまり、そこまでして救出しなければならない、
言い換えれば『北朝鮮に抑留されてはならない』ポジションにいる人物が、
偶然「よど号」に乗り合わせていた、という事だ。 
詳しくは本書を読んで頂きたいが、そう考えれば辻褄が合うことは確かだ。

それにしても考えさせられるのは、日本政府の外交能力の低さと
危機管理能力の甘さ。 そして政治家、識者の定見の無さには
絶句するしかない。 韓国(そして米国)の対北朝鮮政策の
揺ぎ無さを見れば見るほど、その感は募る。
 (近年の韓国政府の掲げる『太陽政策』に代表される、
  対北朝鮮政策のブレは残念な事だ)

英語も朝鮮語も理解できず、北朝鮮での展望も無かった
犯人グループが亡命後、北朝鮮にいかに利用され、
北朝鮮の国家的犯罪の片棒を担がされてきたかを考えると、
犯人グループの幼稚さが哀れにすら思えてくる。 
だからといって私には、彼らが自ら主張するように、
彼らは無実であるとは到底考えられない。
自ら望んで北朝鮮に亡命したのだ。
潔く北朝鮮で一生を全うして頂くか、
帰国を望むならまず自らの罪を贖うべきだろう。

最後に著者の一文を引用させて頂いて終わりにしよう。

*** 以下、引用 ***
>> (前略)
>> 「日本の先生方は『人道主義』という言葉がことのほか好きなようだ。
>> 『人道主義』という免罪符さえあれば世界のどんな国、
>> どんな政府にも通用し、こちらの思うとおりにことが運ぶものと妄想し、
>> そこで思考が停止してしまうらしい」と、こうした識者の意見を読んで思った。
>> しかし「人道主義」とは、それを行使できる自分の側にして意味があるので、
>> 相手に押しつけるセリフではないはずだ。
*** 以上、引用終わり ***

金浦空港での膠着状態にシビレを切らした
日本国内の新聞その他メディア上の論調は、人道主義に基づき、
犯人グループの要求どおりに乗員、乗客とも北朝鮮に送れ、
とするものばかりであった。
世界常識から目を逸らし、北朝鮮にも「人道主義」が通じるとした
論調が大半を占めていたのだ。 上の引用は、それらの論調に目を通した
著者の感想である。 肝に銘じるべきであろう。
相手が『世界常識の通じない国』北朝鮮では、なおさらである。
### 追記 ###
04月02日の日韓会議の席上で、警察庁警備局の後藤参事官から
発せられた言葉がことのほか興味深いので、紹介させて頂く。

*** 以下、引用 ***
>> 「(前略)日本の極左の連中はみな臆病者です
>>  他人の命はなんとも思っておりませんが、
>>  自分の命が一番大事な連中です。
>>  自爆するというのは単なる脅しに過ぎません。
>>  絶対に自分の命を投げうつようなことはできません。 (後略)」
*** 以上、引用終わり ***

乗員・乗客を道連れに自爆を仄めかす犯人グループへの
対策を練る会議の席上で開陳された意見である。
けだし名言であろう。

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