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### 27.Dec.2,011 ###


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爆撃機 「銀河」
島津 愛介 河出書房新社

1,988年04月発行のハード・カバー。

旧日本海軍の陸上爆撃機 『銀河』 に関する自分の知識は乏しい。
少し知識を補おうと、たまたま見かけた本書を衝動的に購入したものの、
そのまま忘れていた。 本に巻きっぱなしにしていたカバーには、
石岡市杉並の『おがわやブックセンター』とある。
どうやら茨城時代に購入したもののようだ。
書店の場所すらもう覚えていないが、当時住んでいたアパートの向かいに在った
書店だったろうか。 あの小さな書店、今はどうなっているのやら。

閑話休題 ...
本書は4章から成る。

昭和56年06月21日、丹沢・蛭ケ岳山中の、登山道から外れた場所で偶然、
旧日本軍機と思しき機体(後に銀河と判明)の
残骸が発見されたエピソードをプロローグに、
『銀河』の技術的側面を解き明かす “第1章 : 15式陸上爆撃機”
米海軍泊地ウルシー環礁への特攻に動員された
K262 『梓』隊を描いた “第2章 : 第2次「丹」作戦”
バイクのチューナーとして有名なポップ(=オヤジ)・ヨシムラこと吉村 秀雄と
『銀河』の知られざるエピソード “第3章 : 夜間誘導”
そして終章 、夜戦機に改造された『銀河』を描く
“第4章 : 厚木302空” の4章である。

海軍陸上攻撃機の決定版として企画された『15試陸上攻撃機』に
要求された性能は、『零戦なみの最高速度、一式陸攻なみの航続力、
1トン爆弾を搭載可能な急降下爆撃機で、雷撃機にも転用可能なもの』であった。
この過酷な要求性能を満たすため、空技廠で計画されていた
航続距離伸張研究機 Y20 を下敷きに設計、開発された機体が、
後の『銀河』である。

絞れるだけ絞った細い胴体をはじめ、可能な限り贅肉を削いだエアフレームに、
奇跡のエンジンと呼ばれた『誉』エンジンを2基搭載した『銀河』は、
最大速度 546 Km/h、航続距離 5370 Km、急降下時の制限速度 648 Km/h という
優れた値をマークしたものの、急転した戦局は部品の材質や品質を低下させ、
機体の性能を削いでゆく。 軍に保証された筈の燃料の質は落ち、
入手が困難となったレアメタル製部材は代用品で賄わざるを得なくなる。
生産現場からは熟練工が徴用で居なくなるに至って、
誉エンジンは持てるポテンシャルを引き出すに至らない。
また悪いことに、先端技術を追求する空技廠の設計はある意味、
量産効率を無視したものであり、『銀河』の生産は遅々として進まない。
これは空技廠のエラーというよりは、日本の基礎工業力のレベルの
低さ故ではあったが。 戦局が劣勢となり、攻撃機を必要としない時期に
登場したのが『銀河』の不運であったろう。 なによりも、機体の性能を
引き出せる熟練パイロットがもう、日本には居なかった。

未熟なパイロットと性能低下を来たした機体で行いうる
乾坤一擲の攻撃方法として、自らの身を対艦ミサイルの部品と化した
神風特別攻撃が組織的に実施されることとなる。
云うまでも無く、それは正攻法では無い。 邪道ですら無い。
国防の名のもとに行われた狂気である。

かくして、九州南端の鹿屋基地から、直線距離で1,360浬彼方の米海軍泊地
ウルシー環礁への神風特別攻撃が企図されることとなる ...

本書は第2章、『銀河』24機で編成された、
神風特別攻撃隊菊水部隊梓隊のエピソードがメインであり、
『銀河』の通史のつもりで読み始めると失望することだろう。
神風特攻に焦点を当て過ぎたきらいは否めず、ややもすると
感情に流され過ぎていると感じる部分が無きにしも非ずだが、
それで本書の価値が減じられる訳では無い。
それほどまでに神風特攻が理不尽で非道なものであったということである。
その狂気がこの国を覆っていたのが、僅かに60年程前なのだと想うと、
瞠目を禁じ得ない。 神風特別攻撃と同一視するわけでは無いが、
たとえフセイン元大統領の身柄が拘束されたとは云え、
国際貢献の美名の下に、自衛隊がイラクに送られようとしている現在だからこそ、
本書は一読する価値があると思う。


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