Bookshelf TOP MENU に戻る
Bookshelf 07年 TOPPAGE に戻る

### Recent UPDATED ###
### 27.Dec.2,011 ###


REVIEW 07-012 へ REVIEW 07-013 REVIEW 07-014 へ

微睡みのセフィロト
冲方 丁
(うぶかた とう)
徳間デュアル文庫

徳間のデュアル文庫は、絶版になって久しい佳作を
多数収録しているので、買い求める事が多い。
活字も少し大きいのだろうか? 読みやすい気がする。
その一方、本のサイズが、標準的な文庫本より少々大きめで、
文庫本と一緒に本棚に並べ難いのが欠点ではあるが。

さて、今回取り上げるのは、冲方 丁(うぶかた とう)書き下ろしの一作。
岐阜県の御出身だそうで、御当地繋がりということで読んでみることにした。

常人(感覚者=サード)しか存在しなかった世界の片隅に初めて、
超常的な次元感応能力を持った人間が現れた。
その人は、次元感応能力を有するばかりではなく、
超次元感応能力の素質を有する者から能力を引き出すことさえできたのだ。
超次元感応能力を得た彼らはフォース(感応者)と呼ばれ、
常人であるサードと区別されていた。
集団となったフォースとサードの間の軋轢は衝突となり、
ついに世界を二分するような戦争に発展した。
苛烈な戦闘の結果、フォースは敗れた。
かつてイタリア半島であったもので作られた墓標“黒い月”を空に残して。

フォースは全滅したわけではない。
戦後生まれの子供の中にもフォースは居た。
かれらは専門の機関(ヴァティシニアン)に収容され、
厳しい監視のもと、生活している。 そんなある日、
急造連邦政府の要人が超次元間能力で惨殺される事件が発生した。
いや、彼は殺されたわけではない。 超次元間能力で
全身を300億個の微細立方体に裁断され、
両眼球を持ち去られた状態で、生きたまま凍結されていたのだ。
かくして、ヴァティシニアンの最高感応能力者、
碧眼の美少女ラファエル・リー・ダナーと、
先の大戦でフォースに家族を惨殺された、
世界連邦保安機構捜査官パット・ラシャヴォフスキーの
急増チームが事件に対応することとなった。
果たして彼女たちは、事件を解決することが出来るのか ...

要するに、ミュータント・テーマ、あるいは人類の正常進化の
過程において、進化に取り残された旧人類との間に生じた
軋轢が生んだ悲劇を描いた物語である。

設定としてはとても面白そうだったが、今ひとつ、
作品世界を楽しめる境地にまでは至らなかったのが正直な感想である。
この物語を語るためにいろいろと『専門用語』が飛び出すのだが、
つまるところ作者の造語であり、それに馴染めるか否かが
ポイントとなろう。 著者独特の作品世界(異世界、と呼んでも良い)の
構築には確かに成功しているものの、ケレン味が強すぎて、
私は馴染めなかったようだ。

ヒロインを守る世界連邦保安機構捜査官の名前が
パット・ラシャヴォフスキー(ロシア人)というのが、
どうにもひっかかってしまったのもマイナス要因。
ロシア人名には詳しくないが、アメリカ人名の
“パット”
女性名“パトリシア”の愛称という
刷り込みが個人的に強すぎて、マッチョな男性捜査官のはずが、
どうにかすると女性のイメージにすりかわってしまい、混乱したのだ。
 (ちなみに男性名の“パトリック”の愛称も“パット”ではあるが)

作風はまだまだ荒削り、いや、独りよがり(辛辣過ぎるか?)で、
ともすれば技巧に走りすぎた作品、といった印象が強く残った。
語り尽くされた感もあるテーマで新しい作品を書こうとする
心意気は評価するが、実力はまだまだ、といったところか。


REVIEW 07-012 へ REVIEW 07-013 REVIEW 07-014 へ

Bookshelf 07年 TOPPAGE に戻る
Bookshelf TOP MENU に戻る