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### 27.Dec.2,011 ###


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蒼いくちづけ
神林 長平 早川書房
ハヤカワJA文庫

“宇宙探査機 迷惑一番”、“ルナティカン”、“親切がいっぱい”等と共に、
光文社文庫から発表された作品。 比較的短期間で絶版となり、
神林フリークの間では『幻の作品』呼ばわりされていたのではあるまいか?
早川書房からの復刊を機に、再読してみることにした。

本作品は 1,987年07月に発表されたそうで、その頃に一度
読んでいるので、およそ15〜16年ぶりの再読になる。
ある意味、同著者の作品 “七胴落し” の世界の
延長線上にある作品かも知れない。

... 時は近未来。 所は月。
月への植民が一般的になり、月面都市生まれの“月人”すら育っている、
そんな時代の物語。 ヒロイン『ルシア・ボーマン』は17歳。 孤児。
親の顔を知らず、親に捨てられた理由すらつまびらかではない。
淡いブルーの瞳と金色の髪を持った、純粋で無垢で薄幸な美少女。
そして彼女はテレパスだった。 しかもかなり強力な。
そんな彼女にも幸せが訪れた、はずだった。
地球生まれの青年実業家との恋に落ちたのだ。
だが、彼の正体はテレパス犯罪者だった。 彼の能力は、テレパス能力を司る
脳細胞を、他人の脳から摘出し、非合法的に移植することで強化されている。
移植された細胞は長続きしない。 自分のテレパス能力を維持するため、
彼は常に優秀なテレパスを物色していた。 強化されたテレパス能力で
本心をマスクし、彼はルシアにアプローチしたのだ。
彼女の脳細胞を盗むために。

愛をささやかれ、初めての幸せに酔うルシアは、そのピークで彼に毒を飲まされる。
間一髪、非常救命カプセルに逃れたルシアだったが、死は免れなかった。
ルシアが脳死に至る寸前、彼に向けた怒り、憎しみ、復讐の念は
純粋な殺意に昇華された。 月から発信されたそれは、地球をも貫いた。
その念のおかげで一度は危機を脱した、孤高の無限心理警察刑事
(テレパス犯罪者専門の刑事、通称 “サイディック”)OZ(オズ)は、
はたしてルシア(の魂、と言うべきか?)を救うことができるのか?

一言でいってしまえば、自らの死を受け入れられず、
復讐の念を放射し続ける孤独な魂と、その救済の物語だ。
そんな物語など、洋の東西を問わず、いくらでもある。
“四谷怪談”や“エクソシスト”等を持ち出すまでも無いだろう。
だが、この物語の語り部が、あの神林 長平なのだ。
語り尽くされた感無きにしも非ずの古典的ストーリーを、
著者がいかに語ったのか、是非楽しんで頂きたい。
息詰まる攻防の果てのエピローグは、今回の再読でも泣けました。
(タニス・リーの 『銀色の恋人』 のエピローグより、こちらのほうが好みかな ..?)

最後に一言、余談ながらアドバイスを。
本書と谷 甲州の“星の墓標”、
スタニスワフ・レムの“ソラリスの陽のもとに”の3冊を、
続けて読むのはお止しになったほうが宜しいか、と。
その3冊を続けて読破したあの頃、あまりの救いの無いストーリーの
3連発コンボに打ちひしがれた私は、精神的な変調が数ヶ月続いたのでした。


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