著者の処女長編であり、『第2回 ムー伝奇ノベル大賞 優秀賞』受賞作。
分類するならば、伝奇ノベル、あるいはエロス・バイオレンスとなるだろうか。
正直言って、ホラーやエロス、バイオレンスといった類は苦手で、敬遠してきた。
そんな私が本作品を読む気になったのは、
新聞の新刊書の宣伝広告に目を惹かれたからだ。
曰く、『選考委員・菊地秀行氏 vs. 夢枕獏氏のバトルを巻き起こした問題作 ...』
菊地秀行氏といえば、“バンパイヤハンター・D”シリーズ等で有名な伝奇小説の大家だし、
一方の夢枕獏氏のバイオレンス系小説といえば、
“サイコダイバー”シリーズ等が有名であろう。
そのお二人が激論を交わされた作品とは、どんな小説だろう ... ?
平たく言えば、出版社の宣伝文句に乗せられたわけだ。
ネタバラシの恐れがあるのでストーリーの紹介は割愛しますが、
これが著者の処女長編作品とは思えないほど完成度は高かったと思う。
作品の系統自体は自分の趣味ではなかったにもかかわらず、
作品の最後まで楽しめたのは、ひとえに著者の力量故であろう。
出版社の商売上の都合からか、分類上は一応
“エロス・バイオレンス”となっているようだが、
エロス目当てで読むと失望することになるだろう。
欠点を挙げるとすれば唯一点。
作中、井岡という名の刑事が登場し、狂言回しの役を務めるのだが、
妙に“明石屋さんま”を想起してしまうようなキャラで、
伝奇めいた作中の雰囲気にそぐわないように感じられた事くらいでしょうか。
構成上、重い雰囲気の作品にはワン・ポイント・リリーフの
ギャグ・メーカーが欲しいのは判るのですが ... 。
荒削りな部分が目に付かなかったわけではないが
それを補って余りある作者の力で『読まされて』しまいました。
次回作が楽しみな作家がまた一人増えたようだ。
伝奇小説の常かも知れませんが、ラストシーンは『切ない』ですね。
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