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### 03.Dec.2,011 ###


グンゼ / レベル 箱スケール F-102 の思い出

私が初めて静岡県浜松市を訪れたのは 1,970年代の中頃。 そろそろ引退が
視野に入り始めた F-86F ブルーインパルスのアクロを見学するためでした。
当時のブルーインパルスは、ダイヤモンド4機とソロ1機の5機編隊での演技でしたが、
入間基地と浜松基地の航空祭でのみ、ソロがもう1機追加されて6機編隊での演技を
観ることができたのでした。 夏休みの終わり頃、航空祭よりも規模の小さな
“ちびっこヤング大会”が浜松基地で催されるとのことで、名鉄本線と国鉄(!)の
在来線を乗り継いで、一人で浜松に出かけたのでした。
当時の国鉄浜松駅舎は小さな平屋建てで、在来線のプラット・ホームも
まだ地面にあり、新幹線のプラットホームのみが高架の上にありました。
在来線の高架化工事が始まった頃で、駅舎の改造 / 解体工事の真っ最中で
あったことをよく憶えています。 さて、今回のお話はその数年後、
就職して浜松市に一時滞在していた頃のお話でございます。
TOY ROBOT small img.
浜松駅の高架化が完了し、駅前の再開発も一段落。 浜松城公園のすぐ脇に
高層ホテル(後のホテル・コンコルド浜松)の建設を認めるか否かで、
浜松市が沸きかえっていた頃だと思います
駅前の再開発事業がさらに進み、現在では広い道路にされてしまったようですが、
浜松駅北口前商店街の東方に小規模なビジネス街がありました。
駅前の北側には当時、大規模な百貨店や小さな個人商店がひしめきあい、
休日ともなると人で溢れかえる、にぎやかな繁華街が拡がっていました。
その様子は現在も変わらないことでしょうが、銀行や証券会社などが集中した
小さな区画がかつて、その商店街の東隣に存在していたのです。
そこにはオフィス利用のみならず小規模商店でも入居できそうな雑居ビルが並んでいて、
ビジネスマン御用達の飲食店もあったと思いますが、そうしたお店は当然、
休日は閉店していることが多いのものです。 休日にもかかわらず、
その区画だけは人通りもまばらでしたので、仕事の都合で休日にしか
街に出られなかった私が、そちらに足を向けることはありませんでした。

ところがある休日、何を間違えたのか、そのエリアに迷い込んでしまいました。
南北に走る、両側に雑居ビルが建ち並ぶ街路をふらふら歩いていると、
とある雑居ビルの1階に、小さな模型店が営業しているのを発見してしまいました。
人影もまばらな、休日のビジネス街のどまんなかに模型店? 
その佇まいはミスマッチを通り越して、ある意味シュールでさえありました。
それでも入店せずにはいられないのが、模型愛好家の性であります。
店内を覗いてみると、模型店とはいえプラモデルのみならず、モデルガンもあれば
組立式ラジコンカーも扱っているという、雑多と言えば良いのか、
節操の無いというべきか、収入に繋がりそうな物なら何でもといった風の品揃え。
そんな没個性的な小さな店であるにもかかわらず、来店客が5、6人もいたのが
不審”を通り越して“胡乱”ではありましたが ... 。
(その理由は、1週間後に思い知らされる事になります)
店内の商品を見ると、プラモデルとその他の物の比率は半々、といったところで、
プラモデルのジャンルとしては、自動車模型に力点が置かれているらしく、
私の関心の中心であった飛行機はほんの一握り、といった様子でした。

軽く飛行機模型の品定めをしていると、グンゼ / レベルのF-102(箱スケール)を2個、
見つけてしまいました。 グンゼとレベルが提携を解消して数年後のことでしたので、
当然“絶版”キットではあります。 スケールこそ中途半端でしたが、グンゼ / レベル特有の
厚手のボール紙で作られたパッケージが懐かしく、またエンジンやらエンジン架台、
牽引車等もモールドされた、模型としては楽しそうなキットでした。
ただ、デカールが黄変していたのが最大の難点でした。
スケール・キットなら、“マイクロ・スケール”等のデカール専門メーカーから
適当なマークを調達することも可能です。 だが、相手が“箱スケール”では ... 。
スケールが中途半端なキット用の代用デカールなぞ、入手できようもありません。
マーキングを手書きする根性も無いし ... デカールの劣化は予想していたとは言え、
これでは製作する目処は立たず、折角購入したキットも押入れの肥やしになるのは必定。

1、『買えない価格のキットでは無い』
2、『でもデカールが使用不能』
3、『マーキングを手書きする根性は無いので、製作する目処が立たない』
4、『押入れの肥やしでは無駄遣い』
5、『でも絶版キットだから、見逃したら最後』 ... そして1、に戻る

このサーキュレーションが始まって、店内で悩むこと30分。
さほど欲しいキットでも無いし、無駄遣いするよりは ... と決心したつもりで、
絡まる後ろ髪を断ち切り、店を出たのでした。
ところが宿舎に帰っても未練が残り、次の一週間は悶々として過ごす羽目に陥りました。
『これだけ気になるなら仕方が無い。 やっぱり買ってこよう!』と意を決し、
次の土曜日、またあの店に足を向けました。

そうしたら、無くなっていました
キットが売り切れていた、という意味ではありません。
あの小さな模型店が、無くなっていたのです。

確かにこの路地だったのに、いくら歩いても、見つからないのです。
何度往復しても、無いのです。
あの模型店が入っていた雑居ビルはすぐに見つかりましたが、
あの模型店が営業していた一角には妙に真新しいCDショップが ...

それで、やっと気が付きました。
店の規模の割りに妙にお客さんが多かった理由。
あの日こそが、あのお店の最後の営業日だったのでしょう。
もしかしたら、閉店セールの真っ最中だったのかも知れません。
... 店の中にも外にも“閉店”の告知は無かったように思いますが、
私が見逃しただけだったのかも知れません
模型屋さんが店を閉め、突貫工事でテナントを改装。
新たにCDショップがスタート ... という事なのだろうと思います。

さほど欲しいキットではなかったものの、
結局グンゼ / レベルの F-102 は入手できないまま、今日に至ります。
それはまるで、喉の奥に刺さった小魚の小骨のように、
ときどき思い出したように疼くのでありました。

模型店巡りを長い間続けていますと、馴染みになった店の閉店は幾度となく経験しましたが、
初めて入店した日が、その店の最後の営業日に重なってしまった例は、
後のも先にもこの一例のみであります。

閉店された、あの名も知らぬ模型店の御主人、
その後どうされているのでしょうね ... ?

TOY ROBOT small img.

グンゼ / レベル 箱スケール F-102 の思い出

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