小学校に上がったころ、初めて買ってもらった漫画の単行本
(“コミックス”という単語はまだ一般的ではなかったと思う)が
小沢さとる著の“サブマリン707”でした。
当時、少年サンデー誌上での連載は既に終了していましたので、
“707”の世界に触れるのは単行本が唯一の機会でした。
教育上の配慮から(あるいはただ貧乏だっただけ?)でしょうが、
ウチでは年間に1冊しか漫画本が買ってもらえませんでしたので、
6巻から成る“サブマリン707”を揃えるまで6年(!)かかってしまいました。
経済環境がシビアで、出版の動きが速い昨今では、
初出版から6年も経過すればどんな良書も絶版になりかねませんから、
のんびりした良い時代でしたね。
さて、サブマリン707 の模型の話です。 モデライズされたのは707-II世で、
(707-I世改は元米海軍軍人レッド大佐率いるムウ潜水艦隊に撃沈された)
キットは大中小3種類あり、それぞれC級、B級、A級と区別されていました。
今回はC級の思い出です。
玩具店の夏の風物詩といえばやっぱり『花火』ですが、
当時はもうひとつありました。 船のプラモです。
当時、田んぼや農業用水、防火用溜池、一般河川、そして銭湯など、
艦船プラモの活躍の場所は無数に存在しました。
そんな環境もあったためでしょう、輪ゴムやモーターを動力にして動く
艦船模型は少年達の夏の定番でありました。
モーターボートから始まってフェリーボート、戦艦、空母に至るまで、
それこそ無数の模型がありましたが、なんといっても動きが立体的な
潜水艦の模型が一番人気であったように思います。
水面を這いまわるだけの水上艦艇と異なり、水の抵抗などを利用して
自動浮沈を繰り返す潜水艦の模型はとても楽しいものです。
ただし、一度潜水したら最後、二度と浮上してこない可能性をも秘めた
とてもシビアでリスキーな模型でもありました。
それらの潜水艦模型の中で一番のお気に入りだったのが
“サブマリン 707 C級”です。
キットは三種類ある707号潜のうちで最大のものでした。
モーター駆動で航走し、単純な機構で自動浮沈を繰り返す一方、
可能な限り劇中のギミックも再現しているスーパーキットでした。
前部甲板と後部甲板に格納されているロケット・ランチャー(ライナー/ホーク)を再現し、
司令塔(セイル)の後ろには小型潜水艇(ジュニア)の格納庫があって、
実際に小型潜水艇の模型を収納することができました。
上部縦舵安定板が太く、またセイルがやや大ぶりだったことと、
横舵を上下に動かすための針金のロッドが後部甲板上に露出しているのが
興ざめではありましたが、これらは全て自動浮沈機構のためでしたので
仕方ありません。
さて、私がこのキットを手に入れたのは、中学校に上がるか上がらないか、
といった時期だったと思います。 “サブマリン 707”シリーズを開発した
今井科学は既に倒産し、資産である金型の一部を売却することで
復活の道を模索していた時期でした。 “サブマリン 707”シリーズの金型は
バンダイが引き取ったようで、夏が来るたびにバンダイマークの
“サブマリン 707 C級”が玩具店等の店頭に並んでいたのですが、
数年もすると見かけなくなってしまいました。
潜水艦模型の活躍の場が減ったためでしょうか、
それとも商品価値が無くなったのでしょうか?
金型が壊れた為だとの噂も聞きましたが、真相は判りません。
しかし偶然、近所の玩具店の模型売り場の棚の奥に1つだけ
眠っていたのを見つけ、長い逡巡の末に購入したのでした。
絶版キットです。 失敗は許されません。
気合を入れてさあ作ろうと思い、工作を開始した矢先に3つ年下の弟が
遊んで欲しいとむずがり始めました。 大事な用があるからと断り、
キットと工具一式を抱えて家中逃げ回ったのですが、許してくれません。
結果、工作は雑になり、製作は一時中断を余儀なくされ、
完成した707号はボロボロの出来となりました。
このことだけでも私は弟を一生涯許せないでしょう(^ ^;;;)。
ご想像どおり大喧嘩となりました。
どんな出来であれ、完成した模型を走らせてみたいと思うのは
人情でありましょう。 水遊びついでに707号潜の進水式を行うため、
遊び仲間達と共に近所の川原へ勇躍出かけたのです。
広い川ではありましたが、ところどころ水のよどんだ浅瀬があり、
そこなら進水式にちょうど良かったのです。 実際走らせてみたところ、
距離が短かったせいか、あるいは雑な工作のせいか、
潜水したまま浮上しませんでしたが、幸い回収することはできました。
その航走の様子は、さすがモーター駆動。
従来のゴム動力とは比べようも無いほど力強いものでしたが、
それが悲劇の前奏曲になろうとは ... 。
この時は、取り外し式のジュニア格納庫扉とジュニア本体は船体に
セットしなかったのです。 ところが、いいかげん遊び疲れてさあ帰ろうかとなった頃、
最後に一度、ジュニア格納庫の扉をセットし、完全な状態で走らせてみようと
思いつきました。 御丁寧にジュニアまでセットして。
完全な姿で走らせてみたところ、船体が水没した瞬間に水の抵抗で格納庫扉が
ふっ飛び、中にセットしてあったジュニアも同時に流出していきました。
さすがモーター駆動 ... と感心している場合ではありません。
自然河川での出来事です。 辛うじて船体本体は回収したものの、
流出したパーツまでは見つけることができませんでした。
川の流れに乗って行ったのなら、今も太平洋のどこかを
プカプカ回遊しているのかも知れません。
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