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### 13.Dec.2,011 ###


ファインモールド 1/72 A7M1 試製烈風

少々作り難いことは確かだが、
苦労する価値は充分あるキット。
1/48もあるよ!
witch img.

零戦の直系の後継機であり、日本帝国海軍最後の
艦上戦闘機になるはずであった“烈風”を作ってみます。
単に同スケールの零戦や、同じ2,000馬力級の
サンダーボルトと並べて見たかったものですから ...


実 機 概 要


昭和16年(A.D.1,941=太平洋戦争開戦の年)初頭。
零戦の後継機開発の必要性を感じた帝国海軍は、三菱に試作を命じたものの、
“雷電”の開発に手一杯だった同社開発陣に余力は無く、しかも適切な
航空機用軽量大馬力エンジンが入手できる目処もたたなかったため、計画は遅延。
実際に設計が始まったのは昭和17年(A.D.1,942)の春からとなった。
(海軍から三菱への計画内示は、昭和15年暮れから昭和16年1月にかけてであった)

海軍航空本部(以下『航本』と略す)の度の過ぎた介入や、
実戦を経験してきた熟練パイロットらからの厳しい要求などが噴出し、
三菱設計陣との間で意見の一致を見ず、 特に翼面荷重値と搭載エンジンの件で紛糾。
その結果、機体の製作は遅れに遅れ、試作1号機が完成したのは
昭和19年(A.D.1,944)4月19日であった。

航本が搭載を要求した中島製 NK-9H(ハ - 45、通称『誉』)は、
金属欠乏により代替材料を使わざるを得なかった部品の材質低下、
徴兵による熟練工の不足、生産工場の被爆、さらには燃料の低質化
といった諸要因により、所期の性能を発揮し得ず。
試作機に搭載した『誉』が所定の馬力を発揮していないのは明らかであったが、
海軍はこれを認めず、“A7M1 烈風”が計画要求値を満足できない原因は、
機体の設計、製作に落ち度があったためとした。
当然三菱側は承服できず、搭載エンジンの三菱製 MK-9A
(社内名称 A-20)への換装を再三提案するも認められず。
最後は海軍側の黙認というかたちでエンジンを A-20 に換装を行った。

試験飛行の結果、性能は格段に向上し、一時は計画廃棄寸前にまで
追い詰められたA7M1 烈風”は“A7M2 烈風”として蘇った。
しかし時すでに遅く、終戦までに完成した“烈風”は僅かに8機
そのいずれもが試作型であった。

試作1号機を除く計7機がエンジンを換装され、“A7M2 烈風”に改修された。 
そのうちの1機(損害が一番軽微だった4号機であろうと言われている)は終戦後、
米軍に接収され、機体引渡しの為、長野県松本から神奈川県横須賀まで、
烈風のテストパイロットを勤めた小福田少佐自らの手によって空輸されたとの
小福田少佐御本人の証言があるが、その後の記録は無く、
米国本土に運ばれたはずの機体は行方不明のままである。
他に量産型1号機が完成目前ではあったが、終戦のため、
愛知県名古屋市大江に在った工場近くの海に投棄された。

計画初期での海軍と三菱間の意見の不一致と、試験飛行初期の処置さえ誤らなければ、
烈風の就役は1年程早まっていたとも云われているが、たとえ“烈風”が
戦争に間に合おうとも、逼迫する戦局を覆すことは不可能であったと想像される。

以下余談だが、烈風計画がスタートした時点では、
三菱製 MK-9A エンジンの開発は中島製 NK-9H 『誉』にやや遅れており、
また三菱製 MK-9A エンジンは実績に乏しかったので、
用兵側の立場からすれば、部品調達の一元化という観点からも
中島製 NK-9H 『誉』を押すのは当然の成り行きのようにも見える。
ただし、一本化したエンジンが構造上の欠陥を有していた場合、
一夜にして全軍の機体が飛行不能に陥るわけで、
整備や部品調達の簡易化というメリットを勘案しても、
やはりエンジンの一本化はリスキーなギャンブルであるといえよう。
“烈風”の場合、このギャンブルが外れた典型的な例である
のかも知れない。 また、仮に三菱製 MK-9A エンジンが
量産された場合でも、中島製 NK-9H 『誉』で発生したような、
熟練工の不足や工場の被爆等に起因する品質(=性能)
低下が起きなかったという保障も無かった点を指摘させて頂く。


製 作


2,002年4月の岐阜コックピット展示会に間に合わせようと製作を開始したものの、
結局間に合わず。 完成したのは7ヵ月後の11月になってからだった。

製作に使用したのは、2,001年末から2,002年初頭に再販されたリニューアル版。
オリジナルは1,994〜1,995年頃にリリースされたように記憶している。
特に同社の3式戦〜5式戦のシリーズで顕著であったが、
大戦末期の日本機らしさを追求するあまり、外板のへたり感を出そうとして、
機体表面が波打ったような表現にしたところ、金型の工作精度の低劣さ故と誤解され、
ユーザーには受け入れてもらえなかったと聞き及ぶ。
部品相互の勘合性も良好とは言えなかったらしいので、
誤解されるのもむべなるかな、である。

今回の再販品では、部品の一部リニューアルも行われているそうだが、
オリジナル品を製作していないので、どの部分がそうなのか判別できなかった。
(胴体左右が新規パーツだったらしい)

□ 全般
パーツの勘合性は良好とは言い難い
胴体左右や主翼上下など、パーツ同士の勘合性はまずまずだが、
3つ以上のパーツが組み合わさる部分(例えばカウリング)では隙間が開いたりする。
特に胴体と主翼の接合部に大きな間隙が生じる。
主翼後端部と胴体下面との間に生じた隙間には、プラ板の切れっ端を
埋め込んで削りだしたが、修正しきれなかった部分にはパテをすり込んだ。
左右主翼上面と胴体との間にも最大2mm程度の隙間が生じるので、
ポリパテをすり込んで修正した。 このため、主翼付け根にモールドされていた
燃料給油口が消えてしまったが、これには目をつむった。

□ 主翼
主翼はモノグラム風の“一部パネルの浮き上がり”が施されており、
メーカーの熱意は感じられるものの、1/72 では少々やり過ぎの感も。
主翼前縁など、機銃口付近のパネルが一部浮き出しているため、
ペーパーがけがやりづらい。

□ ディティール
メジャートラブルは無い。
コックピットは過不足無い出来である(どちらかと言えば“過”か?)
レバーやノブなどの突起を丁寧に塗り分けてやるだけで充分である。

着艦フックが胴体からはみ出して見苦しいので、フック基部をすこし削って、
胴体の接着部分にフィットするようにしてやれば良い。

脚関係はパーツが小さいので、取り扱いに注意。
脚カバーは薄く、エッチングパーツに置換する必要性を感じないが、
脚柱との接着部分が小さ過ぎて接着強度を稼ぎにくいようにも思われる。
脚カバーを胴体に接着するのも、ガイドピンなどの補助が
用意されていないので、位置決めがしづらかったり、接着強度面で不安が残る。

キャノピーのフィットネスは甘い。
後方部分にすこし隙間ができるが、今回は無視。
メンディング・テープの小片を貼り付け、
デザインカッターで窓枠の部分を切り出してマスキング。
三菱用機体内部色で塗装後、胴体に接着。

プロペラとスピンナー、強制冷却ファンの固定方法は無用に複雑で、一考を要する。
金属線等でプロペラ軸を自作したほうが良いかもしれない。
今回は、カウリングの裏にプラ板の切れ端を渡して接着し、
プロペラ軸が後ろに抜けないようにした。
(プロペラ軸自体は自由に回転できる状態になっている)
プロペラと冷却ファンをプロペラ軸に通し、軸の先端にリングを接着。
スピンナーはプロペラ自体に接着した。
プロペラ軸プロペラ冷却ファンそれぞれ自由に回転する
ようになっている訳だが、ここまでする必要があるのだろうか?
要はプロペラと冷却ファンが回れば良いのだから、
プロペラ軸はカウリングに固定しても良くはないか?
ピトー管は真鍮線 / パイプの組み合わせに置き換えた。

□ その他
胴体に、主翼と尾翼、メンディング・テープでマスキングして
機内色を塗装済みのキャノピーを接着し、
サーフェイサー代わりに GSI クレオスの『ベース・ホワイト』をエアブラシ塗装。
これは、胴体と主翼の結合部分にポリパテ等を使った為の表面処理。
消えた筋彫りを慎重に彫り直しつつ、機体表面を軽く磨く。
キャノピーの隙間は『ベース・ホワイト』で埋まるかと思ったが、甘かった。
(機内に噴きこまなかったのは幸いだった)

パテの部分にスクライビング・ツールを当てると、
ライン上のパテが不規則に剥がれて、ラインが汚くなる。
スクライビング・ツールを柔らかく握り、軽いタッチで数回、
線を引くような感じで行うと良いようだが、今回もあまり上手くいかなかった。
主翼上面と胴体の結合線が汚いのはその為である。
異種素材上に上手く筋彫りを施す方法はないものか?


塗 装


GSI クレオス『ベース・ホワイト』をエアブラシで吹き付けて下地を作り、
GSI クレオス製 Mr.カラー(俗称ラッカー系)をエアブラシ塗装した上に
ペトロール油で溶いたタミヤ製エナメル塗料で墨入れ、ウオッシング。

塗装箇所 使用塗料 備考
下地処理 GSI クレオス
『ベース・ホワイト』
隠蔽力こそ抜群なのだが、
なかなか全体に色が乗らないので、
エアブラシで数度に分けて、
気長に根気良く吹き付けること
主脚収納庫
主脚カバー裏側
主車輪ホイールカバー
GSI クレオス
# 8 『シルバー』
余った塗料で、主翼/尾翼前縁、
カウリング先端など、
気流との摩擦で塗料が剥げやすそうな
部分を重点的に塗装
強制冷却ファン GSI クレオス
# 8 『シルバー』
GSI クレオス # 33 『つや消し黒』で
下塗りをした上に
# 8『シルバー』をエアブラシ
敵味方識別帯 GSI クレオス
# 58 『黄橙色』
マスキングテープで丁寧にマスキングすること
プロペラの
危険識別帯
GSI クレオス
# 4 『黄色』
0.7mm 幅が理想だが、
マスキングテープが切り出せず。
0.5mm 幅で塗装
プロペラ
スピンナー
GSI クレオス
# 131『赤褐色』
プロペラ裏面も同色で塗装
機体下面
(脚カバー外側を含む)
GSI クレオス
# 35 『明灰白色』
スケール・エフェクトを考慮し、
GSI クレオス # 1『ホワイト』を30〜40%混色
機体上面 GSI クレオス
# 124 『暗緑色』
スケール・エフェクトを考慮し、
GSI クレオス # 1『ホワイト』を30〜40%混色
スミ入れ
ウオッシング
ぺトロール油で溶いた
タミヤ・エナメル
動翼のラインとカウリングの一部 : XF-1『ブラック』
その他のライン : XF-63『ジャーマン・グレー』

スケールモデルを塗装する場合、とりわけ航空機の場合、
繊細なスジ彫りを埋めてしまう事が多いので、サーフェイサーを使うことはまず無い。
ただし今回はポリパテ等を派手に使ったので、表面処理を慎重に行う必要を感じ、
GSI クレオスの『ベース・ホワイト』をエアブラシ塗装した。

表記が煩雑になるので、以降は、
GSI クレオス製ラッカー系塗料を『Mr. カラー』
タミヤ製エナメル系塗料を『タミヤ』と略記する。 
その他の塗料は今回使っていない。

全体が白くなったところで、主脚収納庫と脚カバー裏側に Mr. カラーの『銀』を吹きつける。
今回製作した『烈風』は試作型なので、工場で丁寧に作られたものと想像する。
それゆえエアフレームも丁寧に塗装されてはいるが、戦局の逼迫で細部塗装は
省略せざるを得ず、本来防錆塗装が施されている筈の部分は無塗装銀色である、
というのが今回勝手にでっち上げた設定。
脚収納庫内部を Mr. カラーの『銀』で塗ったが、
塗料が余ったので、気流との摩擦で塗料が剥げやすそうな部分、
主翼、垂直/水平尾翼の前縁、カウリングの先端などを重点的に塗る。
機体外部色を塗ったあとに、ピンの先端などで塗料を剥がせば、
日本機らしさを演出できるのだが、試作機なので今回は止めておいた。

脚柱は Mr. カラー # 33 『つや消し黒』をエアブラシ塗装。
同時に強制冷却ファンの下塗りも行う。
カウリング円周部の排気管は、 Mr. カラー # 61 『焼鉄色』を筆塗り。
翼端灯は筆で、Mr. カラー # 8 『銀』を下塗りし、
Mr. カラー # 50 クリヤーブルー(右舷)/ # 47 クリヤーレッド(左舷)を上塗り。
脚カバーの荷重表示帯はマスキングした上で
Mr. カラー # 58 『黄橙色』と # 3 『赤』を筆塗りしたが、
マスキングがいいかげんだったので、左右対象にならなかった。
タイヤは Mr. カラー # 137 『タイヤ・ブラック』を筆塗り。

細部塗装が終わったら、ペトロール油で溶いたタミヤ・エナメルカラーでスミ入れを行う。
カウリングの一部と動翼のラインは XF-1 『ブラック』で、
残りのラインは XF-63 『ジャーマン・グレー』を使用。

ぺトロール油で塗料をしゃぶしゃぶになるまで薄め、
面相筆で塗料をラインの交点に置くようにして注してやると、
毛細管現象でラインに塗料が流れて行く。
キャノピーなどの透明パーツには絶対塗らない事。
エナメル塗料やペトロール油はスチロール樹脂を侵すようで、透明部品は曇ってしまう。

一晩放置した後、ペトロール油に浸した綿棒で、
ラインからはみ出した塗料を擦り取る。
この時、気流が流れる方向(機体の前から後ろ方向)に綿棒を動かすこと。
拭き取り時の力加減で、塗装面に塗料が微妙に残り、気流の流れが表現できる。
拭き取り時に力を入れすぎて、ところどころツヤが出てしまったのは反省材料。

国籍マークはデカール。
上質で、貼り具合も良好だが、縁がシルバリングを起こしたのが残念。
少々オーバースケールのようにも感じられるのだが ... 特に胴体側面。
胴体側面の塗り分け線の位置が悪いのか ... ?
白縁を含めた日の丸全体が濃緑色の部分の中に入るよう、
上目に貼ってみたが、どうだろうか?
保管中にデカールの表が湿気でビニール袋に張り付いてしまい、
妙な斑点を表面につけてしまったのが悔やまれる。
クリアー塗料でオーバーコートすればリカバリーも不可能ではないが、
気力が尽き断念。 これで完成とする。


A7M1-1 img.
A7M1-2 img.
A7M1-3 img.


キット評価


1/72 スケールの烈風は、ファインモールド製の A7M1 と A7M2 の他、
アオシマの旧作(A7M2 ?)、MPM(A7M2 / 簡易インジェクション & エッチング)
メカドール(A7M2 / レジン)、レッドバロン(A7M2 ?/ レジン)等が思い出されるが、
ファインモールド以外は入手困難だと思われる。
アオシマ製は数年前に再販されたようなので、入手は可能かもしれないが、
オリジナルは30年以上昔の古いキットなので、購入はお勧めしかねる。

ファインモールド製の烈風は、同社の最近のキットに比べても部品の勘合性が低く、
少々作りにくいのは確かだが、事実上唯一のキットでもあり、
日本帝国海軍最後の艦戦を机上に再現したい
中級以上のモデラーにはお勧め
である。


参考資料 (順不同)


モデルアート 1,995年03月号 (Vol. 445) P.4 〜 11
最後の艦上戦闘機 烈風 / 松岡 久光著 / 三樹書房刊 ISBN4-89522-297-7
ファインモールド社 1/72 試製烈風 キット説明書


ファインモールド 1/72 A7M1 試製烈風


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